ほとんどの時間を仕事に費やし、稼いだお金を散財する――そんなアメリカ人のライフスタイルを変えた1冊がある。全米の若者にFIRE(Financial Independence, Retire Early)ムーブメントを引き起こした『お金か人生か』(ヴィッキー・ロビン+ジョー・ドミンゲス 著/岩本正明 訳)の日本版がついに刊行された。本書の初版が出版されたのは1992年で、原書はこれまでに100万部以上を売り上げた大ベストセラー。ミレニアル世代からの人気を受けて、2度目の改訂版が出版された。FIREムーブメントのバイブルだ。社会派ブロガーのちきりん氏は「やみくもに稼ぐだけが正解じゃない。超合理的なアーリーリタイアへの道標」と同書を評する。日本でもFIREが認知されてきたが、まだその根底にある考え方は知られていない。同書を読むことで「本当の経済的自由は何か」がわかるとともに、「お金に縛られない生き方」を実践できるようになっている。今回の日本語版刊行を記念して、内容の一部を公開しよう。
お金:甘い罠?
「金と命、どっちが大事だ?」
もし誰かが拳銃を脇腹に突きつけてこのように言ってきたら、あなたならどうしますか? ほとんどの人は財布を手渡すでしょう。
こうした脅しが通用するのは、私たちがお金よりも自分の命を大事にしているからです。ところが果たして、私たちは本当にお金よりも命を大事にしているのでしょうか?
レイチェル・Zは凄腕の販売員として週70時間働きましたが、心の中では何かが違うと感じていました。
「『「豊かさ」の貧困 消費社会を超えて』(ポール・ワクテル著)などの本を読んで、何かが足りないと感じているのは自分だけじゃないとわかったわ。ほかの人とも話をしてみて、みんな同じように落ち込むことがあるとわかったの。何でもそろっている快適なマイホームというご褒美を手に入れたにもかかわらず、どこかで『これだけなの?』っていう感覚があった。このまま燃え尽きて会社からお払い箱になるまで、ずっと働き続けるの? 仕事を辞めたら、貯金を取り崩すだけの生活をしながら、死ぬまでいたずらに人生を浪費するのかしら?」
これがレイチェルの偽らざる気持ちでした。