なぜ迅速な対応が可能となったのか。一つには間違いなく行政の強い姿勢がある。もう一つは、大阪の急性期医療の強さが関係している。大阪には、1967年に日本初の重症救急専門施設として「大阪大学特殊救急部(阪大特急)」を開設し、日本の救急医療を作り上げた歴史がある。大阪府立中河内救命救急センター、大阪府泉州救命救急センターのような独立型の救命救急センターは他地域にあまり見られない。

 府内5大学はもちろん、大阪急性期・総合医療センターや大阪市立総合医療センターなど、名だたる急性期病院が力を発揮した。大阪の患者は大阪で診るという「意地」を感じる。

コロナ対応で見いだされた
大阪の「二つの発明」

 さらに、大阪は二つの発明をした。一つは「入院患者待機ステーション」で、コロナ患者の救急搬送先が見つからない際に、一時的に酸素を投与する待機所だ。もう一つは「トリアージ病院」を関西医科大学総合医療センターに設けたことだ。

「トリアージ」とは、患者が多数いる際に緊急度に応じて治療の優先度を決めることを指す。救急搬送先がすぐに決まらない中等症以上の患者をいったん同センターで収容して必要な検査や診察を行い、一刻を要する重症患者かどうかを見極める。重症・中等症患者が急増すると、病床確保が間に合わない「医療の空白期間」が生じがちだ。そこを埋める「応急救護所」は、災害医療(医療の需要が供給を上回る状態を踏まえ、患者トリアージと医療資源の再配分を行うこと)の観点からすると、極めて理にかなっている。

 このように大阪の行政・医療関係者が獅子奮迅の働きをした一方で、重症患者を「抱え過ぎた」きらいはある。

 大阪には患者2人に看護師1人を配置する集中治療室病床(ICU病床)が618床ある。以前『コロナ禍で医療崩壊に向かう日本を救う打開策、集中治療・救急専門医が提言』という記事で述べたように、全ての予定手術を中止したとしても、新たに確保できる重症病床はICU病床全体の60%だ。これを全て新型コロナウイス重症患者に充てたとすると、370床となる(実際にはコロナ重症診療には看護師の人手がより多く要るので、あくまで理論値だ)。

 言い換えると、かなり通常診療を制限しても、大阪で370人以上の重症患者を診ることは難しい。すべての重症患者に質の高い診療を望むのであれば、中等症病院にいる重症患者を広域搬送すべきだった。日本には災害派遣医療チーム(DMAT)という確立されたシステムがあり、実行はさほど難しくない。