トンネル抜けた雪国イメージ写真はイメージです Photo:PIXTA

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」――『雪国』の冒頭は文学史上最も有名なフレーズの一つだ。川端康成は同作などが評価され、日本人初のノーベル文学賞を受賞した。選考対象となった作家の中には、かの三島由紀夫もいたという。川端はノーベル文学賞の受賞理由を「日本的な美や芸術のおかげだ」と語った。筆者は、その「美」が『雪国』に余すところなく表現されていると考えている。川端のいう日本的美しさについて、また『雪国』が発するメッセージについて記したい。(ライター 正木伸城)

卓越した自然描写に彩られた
島村と駒子の恋愛物語

 川端康成は、日本的な美しさが高い風格を持つことを世界に伝えた、国際的に著名な作家だ。1968年、彼はノーベル文学賞授賞式に和装で臨み、受賞について「日本の伝統を書いたおかげ」と述べ、道元と明恵、良寛の3人の僧の和歌を引用しつつ、そこに共通するのが「自然との合一(ひとつにまとまること)」だと強調した。これは『雪国』の作風でもある。

 同作は1934年(昭和9年)から書き始められた。単行本刊行は1937年だが、以後も修正は続けられ、「雪中火事」と「天の河」の章が加筆された今日読まれる『雪国』は、戦時下をくぐり抜け、1948年に刊行されている。その後も推敲は続き、川端は最終的に晩年まで『雪国』を改訂し続けた。

 同作は、文筆業を営む中年男性・島村と、彼が旅先で出会う芸者・駒子との恋愛小説である。日本の独自の自然と風土、説話を交えた内容で、島村の3回にわたる旅を描くその物語は、嘆息するほどの自然描写の美しさに満ちている。