米韓合同軍事の実戦演習は
米韓同盟の試金石

 しかし、文大統領は米朝、南北韓の対話再開を最も重視している。米韓合同軍事演習を再開すれば北朝鮮が反発し、対話再開は一層遠のくことになるだろうと考えている。新型コロナは口実であり何としても北朝鮮を挑発しかねない実戦形式の合同軍事演習は避けたいところである。とはいえ、これまで実戦形式の合同軍事演習を行っていなかったにもかかわらず米朝・南北間の対話が行われなかったのが現実である。

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 東亜日報は「北朝鮮が挑発の口実を探して脅迫を強める昨今の状況で、米韓の大規模合同軍事演習は北朝鮮が核・ミサイルの大型挑発で危機を作る言い訳になりうる。そのために北朝鮮を管理する次元で、米韓が演習の規模を調節する必要もある。しかし、北朝鮮が米韓の相次ぐ対話要請を拒否する状況で、融和の手招きを続けて時間を稼がせることはできない。3カ月後の演習を早くも見送る性急な態度は北朝鮮の誤った判断を生むだけだ」と警告している。

 韓国はこれまで、北朝鮮の韓国非難に対し、譲歩し迎合するだけの姿勢を取ってきた。しかし、こうした態度は北朝鮮を増長させるだけで、北朝鮮側の歩み寄りをもたらす効果は全くなかった。米韓首脳会談を経て、米国の対話姿勢が示される一方で、北朝鮮が非核化に真剣に取り組まない限り、バイデン大統領は金総書記と会わないことが明らかになった。

 文大統領としては、いつまでも北朝鮮に迎合するのではなく、米国と北朝鮮政策をとことんすり合わせ、硬軟両様で北朝鮮に相対することがより効果的ではないか。その意味でも、実戦形式の合同軍事演習を適切な規模で再開することで米韓同盟をより堅固にし、北朝鮮に対してより有効な対応ができるようになるのではないだろうか。

 米韓の首脳会談の成果を踏まえ、文政権が現実的施策を取るようになることを期待する。

(元駐韓国特命全権大使 武藤正敏)