日本初のサインレス決済やポイントに有効期限のない「永久不滅ポイント」など、イノベーティブな発想と戦略でクレディセゾンを成長させ、2002年にクレジットカード業界のトップへと押し上げたクレディセゾン会長CEOの林野宏さん。毎日のようにスタートアップと面会するなど、そのビジネス感度をつねにアップデートし続ける林野さんに「VUCA時代においてネクストリーダーに求められる力」についてお聞きします。今回の質問は「企業が成長する上で成功体験は大事にするべきかどうか?」。果たして林野さんの答えは?(聞き手/ダイヤモンド社編集委員 長谷川幸光)
日本企業の幹部は成功体験に
縛られた人で埋め尽くされている
――企業が成長する上で「成功体験」は大事にするべきでしょうか?
「成功体験」なんてものは生ゴミと一緒です。できる限り早く捨てなければなりません。
たとえば、私は長年、百貨店に勤めていましたが、当時、百貨店は「小売の王様」と呼ばれたりして、周りからちやほやされていました。私が勤めていた百貨店も今では考えられない利益を上げていました。それだけ利益が出て優良企業と言われ続けていると、やはり人は慢心します。慢心すると競争心が失われ、イノベーションは起こらなくなります。この悪循環に陥ると、時間の経過とともに衰退してしまいます。
私たちクレディセゾンにも反省すべき事態がありました。2000年代後半、クレジットカード業界でトップシェアに上り詰めて勢いに乗っていた矢先、賃金業法改正、割賦販売法改正、過払い返還訴訟が相次ぎ、私たち含め消費者金融業界は厳しい状況に追い込まれ、メガバンクを軸に再編が進みました。消費者信用会社は壊滅状態となったのです。
クレディセゾンは何とか生き残ることができましたが、健全に運営していた企業が法整備によって窮地に立たされたことに非常に憤りを感じるとともに、成功体験にしがみつくことの危うさを、身をもって知ることとなりました。
今、残っている日本企業の多くは、商品やサービスがヒットした等、何らかの形で成功したために残っているんですね。そうなると、それらの成功を生み出した人が今、企業の経営側に立っています。企業の幹部が皆、そうした成功体験を経た人たちで埋め尽くされているわけです。
成功体験というのはなかなか忘れられません。成功体験というのはいつの間にか自分を縛ってしまうんですね。部下が何か新しいことを提案しても、「オレたちの時代はこうやって大成功したんだ」と自慢話が続くばかりで、耳を傾けようとしない。たとえ耳を傾けたとしても、それを実施してみようという決断を下せない。しかし本当は、うまくいった時こそ、次の一手を打っておかなければならないのです。
――成功体験に溺れている企業は、そのまま沈むしかないのでしょうか?
子どもに「勉強しろ、勉強しろ」と言っても、勉強なんてしないですよね。同じことです。