持続的な和平を実現できない
イスラエルの悲劇的な現実

 コロナ禍を見事に克服したかに見える同国だが、国内ではパレスチナ人との衝突が激化。対外的にはバイデン政権の誕生でアメリカとの関係が冷え込んでおり、宿敵イランに対する包囲網も綻びかけている。まさに内憂外患だ。

 今回も汚職疑惑をうまくすり抜けられれば、国民から強行派のネタニヤフ再登板の声がまた起きても不思議ではない。

 暗殺されたラビン首相はハト派のイメージが強かったが、もともとは軍人で彼も急進的な対パレスチナ強硬派だった。

ドナルド・トランプ 世界最強のダークサイドスキルドナルド・トランプ 世界最強のダークサイドスキル
蟹瀬誠一 著
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1650円(税込)

 76年にイスラエル人を人質にとったパレスチナ・ゲリラによるハイジャック事件では、ウガンダのエンテベ空港に特殊部隊を突入させ人質を解放している。80年代にはパレスチナ民衆の蜂起に対して「石を投げる者の手足を切れ」と激しい弾圧を行った。

 だが労働党の政治家として首相に就任すると、思慮遠望からペレス外相とともに和平路線に転じたのだ。

「ラビンは謙虚で優れた歴史観を持ち、最高の計画でも失敗することがあるということをいやというほど学んでいた」とハレヴィは言う。その経験と歴史観からアラファトと手を握り歴史的な和平合意を実現できたのだ

 しかしそんな思慮深い英雄的人物でさえ国内の狂信的右派によって暗殺されてしまう。それが四半世紀たった今も持続的な和平を実現できないイスラエルの悲劇的な現実なのだ。

(国際ジャーナリスト・外交政策センター理事 蟹瀬誠一)