若者が自然と集まる
求人に困ったことはない

 常連に愛される秘密はやはり、料理と酒へのこだわりが群を抜いているからだ。

「食材はもちろん、しょうゆなどの調味料もほとんど山形産のものにこだわっています。ここまで地元のものを選んで使っているのは、世界中でうちが一番ではないかと思うくらいです。野菜もこちらから『○○が欲しい』とお願いするのではなく、契約する農園さんのおすすめ食材を送っていただき、それを元にメニューを考えています。さらに山形の地元の酒販と直接取引させていただき、東京では流通しないお酒も置いています」

「どりーむずかむとぅるー」の各店舗ではアートディレクターが店内のコンセプトやロゴなど細部にわたって洗練された空間を作っている。店内でのアートの展示、ライブの開催、ギャラリーの運営など飲食店の枠に入らない活動を続けている。

「お店や会社を知ってもらうために、商品を宣伝するのではなく自分たちが何者で、どんな価値観を持っているのかを宣伝するようにしています。飲食だけではなく、自分たちが好きなカルチャー系のイベントを行ったり、ギャラリーを作ったりしているうちに自然と人が集まってくるようになりました。『山形×飲食×○○』の組み合わせをいかに面白くするかを考えていますね」

 山形料理と音楽、アートなどの組み合わせで、さまざまな分野からファンを獲得し、著名人もその場所に集い始めている。それにしたがって、高円寺でもカルチャーの中心地という認識が確立しつつある。

 こうした店の価値観に共感し、「働きたい」と志願する若者も多いという。

「飲食業界は求人に苦労すると言われますが、うちは求人に困ったことはないですね。居酒屋なのに福利厚生や休日がしっかりしている点、自分で企画したイベントができたりするので、飲食だけにとらわれない好きなことができるという点、これらが人を呼ぶんだと思います」

 実際に従業員の大半は20~30代。また、近年では女性の希望者も増えていると高橋氏は話す。

 山形料理で多くのファンを獲得した高橋氏は、今後の方針をこう語る。

「今後10年を見据えると、来店売り上げは将来的に半減すると考えているので、通販、レシピのライセンス、キッチンカーなど来店売り上げ以外の収益の柱を作りたい。あとはハラルラーメンを開発して中東に進出したいと考えています」

 ほかにも、クリエーターのシェアオフィス、ユーチューブスタジオ、サウナなど数多くの事業を計画しているという。郷土料理屋というジャンルを越えた活動はまだまだ終わりそうにない。