「広島、長野、北海道の国政選挙3連敗で明らかなように、このまま総選挙に突入すれば大敗する恐れがある。五輪を中止すれば、コロナ対策の失敗を認めたことになる。開催すれば、ナショナリズムが燃えて世論が変わるかもしれない。勝機はそこだけ。さまざまな不安には目をつむり、楽観的願望を頼りに突進する。第2次大戦末期にも似た展開です」

 コロナ禍が長引き生活不安などが鬱積する気分を、お祭りで発散させる。国民も気分が変わる刺激を求めている。開催してしまえば、ムードは一変する。日本人選手の活躍をメディアは汗と涙の物語で取り上げる。「ガンバレ、ニッポン」の渦が巻き起こる――そう思ってのことのようだ。

 政府のコロナ対策分科会や医療関係者らからも五輪開催への疑問が出されているにもかかわらず、首相は語らない、訴えない、答えないダンマリ戦術で押し通した。

 医療関係者が悲鳴を上げようと、新聞が「反対社説」を掲げようと、無視。国会で何を聞かれようと、決まり文句を繰り返し、論議をはぐらかした。耳と口を閉ざし、時間切れに持ち込む。その作戦は成功したようにみえる。

G7で「世界への約束」に
IOCとタッグ組む首相

 英国・コーンウォールで開かれたG7サミットで首相は「難局を乗り越え日本から世界に発信したい」と東京五輪への決意を語った。開催は世界への約束となった。ここまで来れば、もう誰も止められない、と思っているに違いない。

 次の段取りは、東京・大阪などの緊急事態宣言を解除し、開催を前提に観客などの規模を決めることだ。

 分科会の尾身茂会長らによる「提言書」に待ったをかけていたのは、開催が動かない時点まで抑えるためだった。

 提言は「参考にします」といんぎん無礼に処理し、来日するIOCのコーツ副会長らとの5者会談で、最終的な段取りを決める。あとはIOCと開催地・東京都に任せるということだろう。

 首相とバッハIOC会長は「何がなんでも開催」で、ピタリと息を合わせてきた。バッハ会長は、4年に一度のお祭りが中止になったらIOCの収入が吹っ飛ぶ。全米に独占中継するNBC放送から放映権料が入らなくなったらIOCの屋台骨は揺らぐ。日本の事情などお構いなしだ。

 IOCは「大会関係者が観戦できるように」と要求している。「五輪貴族」と呼ばれるIOC役員や王族、スポンサーなどの豪華接遇を大会の度に開催地に求めてきた。一般の外国人観客を受け入れない東京五輪の観戦は、特別扱いのサービスとなる。「五輪貴族用」の席を求めているという。