スケープゴートという手段を使いにくくなった理由

 この問題が延々と続いていることにウンザリした気分が国民に広がっている。特に、与党のスキャンダル発覚のたびに、政策を放り投げて嬉々として疑惑追及に走る野党の低支持率は、目を覆うばかりだ(第231回)。ゆえに、与野党ともに「財務省をスケープゴート」にする「落としどころ」が必要だと言ってきたのだ。

 政治家が、秘書、官僚などを「スケープゴート」にして、疑惑追及から逃れようとすることは、いい悪いは別にして政界ではよく行われてきたことだ。森友学園問題でそれができなかった理由は、安倍前首相の「私や妻が関係していたということであれば、もう間違いなく総理大臣も国会議員も辞める」という国会答弁があったからだ。

 これで、政府与党も財務省も、必要以上にかたくなに守りに入ってしまった。野党も後には引けなくなってしまったのだ。しかし、事ここに至れば、与野党ともに「落としどころ」を探らざるを得ない。

 赤木さんのご遺族の心中は察するに余りある。世論も納得しないのは当然だ。しかし、政治は自らの関与を否定し、財務省を処分・蹂躙することになるのだろう。

 そこで、焦点となるのは菅首相が「赤木ファイル」で安倍前首相を守るかどうかということだ。

菅首相は、安倍前首相を守るのか

 安倍政権時代、菅氏は官房長官として官邸に集まるヒト、カネ、情報を一手に握ることで絶大な権力を掌握してきた(第253回・p5)。その権力は、安倍前首相とその周辺が「権力の私的乱用」をして、うまい汁をすすることを守るために使われてきた。一連の隠蔽、改ざん、虚偽答弁とそれらに対するメディアの甘い対応は、菅官房長官の指揮によって行われてきた。

 ところが、昨年秋、検察が「桜を見る会」に関して安倍事務所の事情聴取に入ったことに対して、菅首相が「黙認」した。菅首相は、検察もメディアも抑えることなく、安倍前首相を切り捨てたとみえた(第260回)。「赤木ファイル」でも、メディアが安倍前首相への批判を強め、菅首相がそれを放置すると、「安倍復権」への障害になる。

 言い換えれば、安倍前首相が「菅降ろし」のような動きを見せるならば、菅首相は即座に安倍前首相の「復権」の芽を摘むことができる。安倍前首相の生殺与奪を握っているということだ。安倍前首相は簡単には動けない。菅首相自ら辞任するような事態にならない限り、菅首相を支えるしかない。