星野リゾート代表・星野佳路さんが、次々と権限委譲を進めている中、今も自ら陣頭指揮を執っているというのが予約獲得だ。ITの登場で観光業の予約のあり方が変わってきた中で、星野リゾートはどのように予約獲得の手法を変えてきたのか。また、その問題意識はどのようなところにあるのだろうか。(構成/斎藤哲也)

観光産業の広告は採算が合わない

 今回のお題は予約獲得戦略です。

 近年、(代表である)私が仕切る組織から、チームで経営する組織にステップアップしていくために、さまざまな新しい経営体制を取り入れてきました。それによって多くの機能が私の手を離れつつありますが、最後に残っている分野が予約獲得です。かつてマーケティングの大家である米ノースウエスタン大学経営大学院名誉教授のフィリップ・コトラー氏が「マーケティングは社員に任せるには重要過ぎる」と言っていたので、それを言い訳に今でも深く関与しています。

 しかし、この分野もそろそろ次世代のあり方を考えていかなければなりません。それには私と同じ能力を持つ人材、またはチームをつくるという考え方ではなく、新しい仕組みで効果を維持するというアプローチを取ろうとしています。その方法はまた別の機会にお話しするとして、今回は長く携わってきた予約獲得の変遷とロジックをお伝えしたいと思います。

 大前提は、ホテルや旅館の利益率を考えると、プロモーションに広告を使うことはできないということです。規模が巨大なホテルであれば多少は可能かもしれませんが、地方の観光宿泊施設は小型だと20室前後、大型でも200~300室程度であり、広告予算を捻出するだけの規模がありません。これからは国内市場だけでなく、インバウンドも狙っていく必要がありますが、全世界で広告を露出するということは不可能です。