4×100mリレーにもメンバー入り
一発勝負を制したメンタルの強さ

 陸上を含めたスポーツのジャンルだけにとどまらず、例えばビジネスの世界でもここ一番における集中力の高さと、プレッシャーをはねのける平常心は重宝される。

 多田のひと言に大きな興味を抱き、どのようなバックグラウンドがあるのかを知りたいと考え、恩師である花牟禮氏を大阪桐蔭高に訪ねた。創意工夫次第で教えられる側を飽きさせない、さまざまなトレーニングが編み出せることに深い感銘を受けた。

 そして同氏は取材の最後に、多田の成長曲線と照らし合わせながら、東京五輪へ向けてこんな展望を描いていた。

「4×100mリレーメンバーの一角に入れるかな、と」

 リレーメンバーだけではなく、個人種目でも山縣と共に代表を射止めた。最高の形で予想を覆してくれた多田の走りを、花牟禮氏はテレビ越しに観戦。レース後にはごく短いやり取りながら、LINEのメッセージを介して喜びを分かち合った。

 関西学院大から入社した住友電工で、課題だった後半の失速を修正した多田自身の努力も見逃せない。それでも記録よりも勝負が重視され、おのずとメンタルの強さが問われる一発勝負で、いつも通りの自分を表現できた集中力の高さが最後は明暗を分けた。