懸念(4)
5G投資の遅れ

 総務大臣が胸を張る「1兆円の国民負担軽減効果」ですが、経済学的には大企業の収入の減少は、それと同額の投資減少のリスクを生むことになります。国民がなんとなく想像するような、売り上げが1兆円減ったら大企業幹部が銀座で高いお酒を飲めなくなるような現象が起きるわけではなく、実際には接待は減らさずに投資計画を見直すことになる。これが経済というものです。

 では、重要なところでどこにしわ寄せが来るのか?私が一番心配なのは5G投資の遅れです。

 5G、つまり第5世代の携帯電話ネットワークは単にこれまで以上に高速なだけではありません。同時に大量の端末が基地局とつながることができ、かつタイムラグがない。このことでモノがネットワークにつながり、それを遠隔操作することができる新しい時代がやってくる。これが5Gの本質です。

 これはインフラの性能アップにとどまらず、5G回線に付加価値をつけた新たなビジネスチャンスの誕生を意味します。遠隔医療どころか遠隔手術が行われたり、物流インフラに新たな付加価値がつけられたり、サプライチェーンに革命が起きる。しかもその投資は5Gが導入される世界各国に事業展開できるものです。

 つまり5Gに期待されることは通信会社自身の刷新であり進化です。国内インフラのネットワーク投資だけでなく、グローバル市場を視野に入れた巨額の産業投資が発生することが好ましい。通信会社が生み出す新サービスが世界展開していくべきなのです。ところが、そのための投資原資がこのままいくと年間1兆円規模で減少するリスクがあるということです。

 つまるところ、国民負担が1兆円減ることで、日本の経済成長も1兆円分スピードが遅くなる可能性がある。負担が安くなることは国民経済の目先にはいいことなのですが、そのツケはかならずどこかでやってくる。経済とはそういうものなのです。

 どうでしょう? 今回予測した四つの懸念点、それぞれ悪い方に転がる前に、なんとか踏みとどまれる可能性もあるとは思います。それにしてもそれぞれのリスクの影響度を考えると、携帯料金値下げの経済効果は「国民負担の減少額」という一つの尺度だけでチェックしていると危ないと私は思います。みなさんはどう感じたでしょうか?

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)