富山駅と宇奈月温泉駅を結ぶ本線93.2キロの鉄道と、富山市内を循環する15.2キロの軌道(路面電車)を有する富山地方鉄道は、路線の総延長で見れば大手私鉄の東急電鉄に匹敵する、全国でも有数の規模の私鉄である。

 しかし、輸送人員では東急電鉄の年間約11.9億人(2019年度)に対し、100分の1以下の1137万人(同)にすぎない。しかも1989年度の1643万人から30年で3割以上減少しているのだ。

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 コロナ禍を受けて経営はますます苦しくなっており、2020年度連結決算では約71億円の売上高に対して過去最大となる約30億円の純損失を計上している。設備投資は先送りされ、人員の増強もままならず、まさにヒト、モノ、カネの全てが足りない状況である。

 地方私鉄が置かれた環境はどこも似たり寄ったりだ。地方の衰退によってじわじわと経営体力が奪われていた中で、とどめの一撃がコロナ禍であった。このままでは各地で第二、第三の富山地方鉄道が生じかねない。

 もちろん安全確保は事業者の務めである。富山地方鉄道には引き続き、安全対策の強化を求めたい。しかし、事業者が支えきれなくなった時に、誰の負担で、どのような形で鉄路を維持していくのか(あるいはしないのか)。地方私鉄の破綻、あるいは大事故といった終局を迎える前に、国と自治体が責任をもって考えなければならない問題である。