海外の節税#7Photo:PIXTA

富裕層の海外資産に対して世界の課税当局が情報交換するという強力な「武器」に加え、国税はさらなる武装をもくろんでいる。それが、2026年度をめどに導入する予定のDX(デジタルトランスフォーメーション)化だ。だが、そこには抜け穴や落とし穴が潜んでいる。特集『海外の節税 富裕層の相続』(全21回)の#7では、元国税調査官の視点で行政上の課題に迫る。(元国税調査官・税理士 安永淳晴)

国税が富裕層を狙い撃ち
海外資産に対する包囲網

 かつて、昭和から平成の初めにかけて、富裕層は国税当局にとって「お客さま」だった。富裕層は高額納税者であり、かつ、社会に対する影響力も看過できない存在だったからだ。

 それが今や、海外への資産移転など租税回避の問題が明るみに出たことなどをきっかけに、課税当局の狙い撃ちの対象となり、富裕層包囲網が確実に築かれている。

 現在、富裕層の海外への資産移転など過度な節税・租税回避をターゲットに、国税庁は「富裕層PT(プロジェクトチーム)」を設置、全国の主要な出先機関に展開している。それを勢いづけたのが、大阪国税局が実施した兵庫県芦屋市の富裕層に対する重点調査だ。実に、総額43億円の申告漏れを指摘し、大きな実績を上げている。

 さらに、富裕層と親和性のある海外資産に対して、課税庁が捕捉する大きな「武器」を手に入れている。それが「共通報告基準(CRS)情報」だ。

 2016年に、経済協力開発機構(OECD)においてCRSが策定された。参加国の間で、互いの国内における非居住者に係る金融機関の口座等の情報を、活用先の国と自動的に交換する体制が整備されたのだ。

 わが国がCRSに参加し、情報交換の初年度となった18年度には55万件の国外金融口座情報を受領したが、19年度にはすでに200万件を超える情報を受け取っている。

 何より、CRS情報は、従来の「国外送金等調書」や法定資料の交換によるものとは異なり、金融機関口座の残高や、取引内容に係る直接的な情報が反映されている。そのため、税務調査における破壊力は絶大である。

 早速、国税当局が税務調査にCRS情報を活用し、海外資産に関する事案や富裕層に対する調査企画および調査事案を組成し、着々と実績を上げている。しかしながら、CRSによって、海外資産を利用した課税逃れに全てふたがされたというわけではない。依然として、CRSから免れる手法は残っているのだ。

 次ページ以降では、CRSの抜け道に迫るとともに、国税庁が各種情報をデジタル化することで税務調査の高度化を狙っているが、そう簡単にはいかない事情について解説していこう。