長年、各種“節税商品”の筆頭格であった生命保険。しかし、氾濫するあの手この手の課税逃れに業を煮やし、国税が次々と規制をかけている。だがそもそも、ほとんど全ての節税保険に“節税効果”は「ない」。特集『最強の節税』(全22回)の#8では、長年節税保険の営業も手掛け、その裏側を知るベテラン税理士が「節税保険のまやかし」を徹底解説する。(税理士 吉澤 大)
超売れ筋の節税保険に国税庁が大ナタ!
バレンタインショックの衝撃
税理士。1994年、当時26歳で吉澤税務会計事務所開設。現在、同事務所代表およびアライアンスLLPパートナー。「つぶれない会社づくりに寄与する」ことをミッションとし、税務・資金調達という自身の専門分野で種々の難問に取り組む「中小企業のファイナンス用心棒」。著書に『会社の財務』(日経BP社)のほか『つぶれない会社に変わる!社長のお金の残し方』(日本実業出版社)などがある
節税商品の王道であり、数多くの税理士が売りまくってきた全額損金型生命保険。
税金繰り延べ効果を追求した新商品の開発とそれを鎮圧するかのような国税庁の規制。延々と繰り返されるこのいたちごっこが、近年激しさを増しています。
まず、日本生命の「プラチナフェニックス」に代表される「傷害保障重点期間設定型長期定期保険」です。支出時に全額損金算入可能、つまり保険料の支払時にそれを全額損金として他の所得から差し引き、課税所得を抑えることが可能でありながら、解約返戻率(保険料掛け金総額に対する解約返戻金の割合)が高く、保険業界では「近年まれに見る発明である」と言われて売れに売れました。しかし、2019年2月、この商品の節税効果を封じ込める新通達が出されました。19年7月8日以後の保険契約について、解約返戻率ごとに支出時の損金算入割合に制限を加えるという内容です。業界では通称「バレンタインショック」と呼ばれ、各社が相次ぎ関連商品の販売を中止する騒ぎとなりました。
新通達による規制は、納税者のトータルの税負担を増やすものではありません。とはいえ、契約当初に全額損金算入されることを狙って目の前の税負担を軽減しようともくろんでいた人には、かなり厳しいものでした。例えば、最高解約返戻率が85%を超える生命保険などについては、当初の10年間は支払保険料の90%の金額を資産計上しなくてはならなくなったのですから……。
もともと金融庁は“保険としての機能を無視し、割高な保険料で単に解約返戻率を高めるためだけに設計された保険商品”を、各保険会社がアンフェアなセールストークで販売していたことに憤慨していました。このセールストークで使われていたのが、「実質返戻率」という“まやかしの数字”です。そのカラクリを詳しく見ていきましょう。節税保険には、節税効果などどこにもないのです。