「こんまり」こと近藤麻理恵は世界で最も有名な日本人の一人。彼女の世界進出を手がけたプロデューサー兼夫である私の書籍『Be Yourself』では、こんまりが世界で活躍するようになった舞台裏を明かしています。今回対談する尾原和啓さんは新刊『プロセスエコノミー』を出したばかり。こんまりがブレイクした秘密をお伝えします。(構成/宮本恵理子)

■尾原さん×川原さん対談01回目▶「尾原和啓×川原卓巳「DXの次はEXの時代が来る!」」

片づけを「苦」から「楽しい」に転換して、こんまりは世界で売れた尾原和啓さん(写真左、撮影は千川修)と、川原卓巳さん(写真右)

尾原和啓さん(以下、尾原) 前回の記事(「尾原和啓×川原卓巳「DXの次はEXの時代が来る!」」)で、卓巳さんはこんまりこと近藤麻理恵さんが世界中で有名になった背景には、「正しいことを楽しく伝える重要性」を発見したと説明してくれました。

川原卓巳さん(以下、川原) 正確に言うと、麻理恵さんが世界でブレイクしていく中で発見していったというよりも、プロデューサーとして僕自身が表に出始めて、たくさんの人からビジネスや自己実現の相談を受けるようになってから気づいたんです。

 みなさん、素晴らしいことをやっている。でも、世界には届いていない。この間にあるものはなんだろうと考えたときに、「正しいことを正しく伝えようとしても、世界には届かない」という真理に行き着いたわけです。

尾原 詳しく教えてもらえますか?

川原 考えてみてください。そもそも「片づけ」って、多くの人にとって「面倒」であり、「できれば後回しにしたいこと」じゃないですか。

 それを麻理恵さんは、純粋に楽しいものとして捉えているし、楽しいものとして表現しているんです。そのメッセージに触れた人は、「なんだか楽しそう」と興味が湧いて、つい片づけを始めたくなる。実際にやってみると、本当に人生に変化が起き始めるから、「何これ、すごい!」と感動して、口コミの伝播力で広がっていった。

 つまり僕たちは多くの人にとって、面倒でやりたくない片づけを「楽しいこと」として表現したから、世界に行けた。そう確信するようになったんです。

尾原 確かに、「楽しい」という表現に転換された途端、人に伝わりやすくなるし、今までその価値を感じられなかった人にまで届くから、遠くまで広がっていく。出発点は、純粋に「自分がやりたいからやっている」という気持ちなんですよね。

 最近、最大の自己投資は、ギブ(与える)と感謝だと思っていて。ギブするだけでは不十分で、ギブに感謝をセットしないといけないんです。感謝の気持ちを持たずにギブをしすぎると、かえって相手とケンカしかねないな、と。

川原 どういうことですか?

尾原 ギブという行為は、最初は好意から始まるかもしれないけれど、相手がちゃんと受け取ってくれないと、だんだん悲しくなってくるじゃないですか。

川原 感情に怒りとか寂しさとかが混じってきちゃう。

尾原 そうそう。怒りや寂しさにとらわれるようになると、今度は「ギブしている自分が悪いんじゃないか」と、辛くなるんです。

川原 なるほど。

尾原 でも、人間って自分を責め続けられるほど強くはないから、今度はイソップ童話でいう「酸っぱい葡萄」現象が起きちゃうんです。とてもおいしそうな葡萄が高い位置に生えていて、キツネは一生懸命ジャンプして取ろうとする。でも、どうやっても取れない。すると、キツネは「あんな葡萄、酸っぱいに決まっている」と去っていく。自分の能力が低いと認めたくないからです。

 同じことがギブの行為にも起こりがちなんです。最初は好きでギブしていたはずが、相手が受け取ってくれないと、相手を責め始める。「あいつは正しくない。ギブに値しない相手だ」と。最初は「楽しい」から始まった行為なのに、いつの間にか「正しい・正しくない」という判断にすり替わってしまう。結果、分断が起きてしまうんですよね。

川原 それは確かにあるな。鋭い考察ですね。

尾原 マザーテレサの言葉、「If you judge people you have to no time to love them(誰かを正しくないと決めてしまうと、その人を愛する時間がなくなってしまいますよ)」が好きなんです。相手を正しいか正しくないかで判断した瞬間に、相手とつながれなくなってしまう、という忠告です。

川原 しっくりきますね。

尾原 変化の時代には、ゴールよりもプロセスそのものを楽しむ姿勢が大切です。昭和の時代は、「ないモノを満たす」消費が求められたから、安くていい車や、コンパクトなコンピュータを作って差し出せばよかった。つまり、結果目的だったんです。

 でも、モノが満たされた今の時代には、そもそもゴールがどこにあるか分からない。特定の目的を達成することを楽しむ時代から、ただ走ることそのものを楽しむ時代になっている。

川原 その変化の実感はありますね。

尾原 楽天大学学長の仲山進也さんによると、人が夢中になって没頭する「フロー状態」になる3つの条件は、「得意」「楽しい」「誰かの役に立つ」なのだそうです。こんまりさんは、まさにその典型ですよね。

 片づけが好きで得意だから、きょうだいや友達の部屋まで片づけてしまう。そのうち、それが仕事になって、日本を、世界を片づけたいとビジョンが広がった。ただ、好きで得意なことを夢中でやっているうちに、他人が喜ぶ利他的価値になっていった。

川原 その構造、音声SNS「clubhouse」で起きている現象も説明できますね。日本上陸直後、わーっと盛り上がりを見せて、今は「下火になった」なんて言われているけれど、ただ「フォロワー増やしたい」「手っ取り早く売り上げ伸ばしたい」といった結果目的タイプの人がいなくなっただけだと僕は見ています。

尾原 確かにその通り!

川原 僕は単にclubhouseで発信して誰かとつながることが楽しいからやっている。どこに行くかは分からない無計画な旅だけれど、その道のりを楽しんでいる。でも、その結果として、自分がやりたいことを分かち合える人たちと出会えるようになる。これからは、自分自身の人生をエンタテインメントとして楽しめるかどうか。いつかの楽しみのために今を犠牲する価値観ではなく、今この瞬間を大事にする。

尾原 clubhouseの開発者がどれだけ意識していたかは分かりませんが、“冒険の同行者”を見つけやすい場所になっていますよね。

川原 冒険の同行者。いい言葉ですね。楽しいから冒険する、喜ばれるからどんどん進む……、これだと無限に続けられますよね。

尾原 さらに言うと、このフロー状態に入ると、人は急速に成長するんですよ。難しすぎず、易しすぎない、適度な難易度の課題を乗り越えていくうちに、気づけばものすごく高い山を登っている。これがフロー状態と言われていて、人の成長を加速させる。

川原 まさに、僕が“こんまりジャーニー”で辿ったのはそのフロー状態だったと思います。麻理恵さんと関わり始めた2013年の時点では、僕はまだ会社員で、自分に何ができるのかも分からず、おっかなびっくりやっていました。

 でも、とにかく無我夢中でやっていたら、いつの間にか渡米する決断をしていた。この時も、まったく英語がしゃべれないレベルからのチャレンジです。そして、次から次にやってくる波を乗り越えているうちに、シリコンバレーで世界屈指のベンチャーキャピタルのセコイヤから投資を受けるというワケの分からない展開になっていた。

尾原 さらりとおっしゃいましたが、日本企業でセコイヤの投資を受けたのは、卓巳さんの会社が初めてですからね。

川原 ありがたいです。でも、内心はずっとビビっていました(笑)。とにかく、ずっと強制的に成長させられていたような実感があります。
(2021年7月30日公開記事に続く)