南通は「上海の北玄関」になるのか

 面積が小さい永隆沙と興隆沙ならいざ知らず、南通という広大な土地までも上海に取られてしまいそうな立場にある江蘇省にとっては、言うまでもなくデリケートな話題だ。だから、南通は公式な場ではこうした噂に対して、なるべくあいまいな態度を取るように気を付けているというわけだ。

 ただ、企業誘致など実利に関わる場合には、南通は十数年前からすでに対外的に自らの存在を「北上海」とアピールし、懸命に売り出そうとしている。もちろん、誰もが南通を北上海と本気で受け止めてはいない。

 だが、もともと長江に隔てられていた南通と上海の間に、ここ十数年で長江に架かる橋が相次いで造られ、車で移動できるようになった。さらに、昨年7月1日から上海と南通を結ぶ鉄道も開通し、中国版新幹線である高速鉄道も走るようになった。そこへ、さらに南通に上海を冠する空港が完成すれば、南通は間違いなく「上海の北玄関」になる。

 2010年、私は中国市場に関心をもつ日本企業のために、「第2の蘇州」「明日の星」と期待される中国の地方都市を紹介する本を書いた。『莫邦富が案内する中国最新市場 22の地方都市』(海竜社)だ。そのなかで、1位に紹介したのは寧波だが、2番目に推したのはその南通である。

 上海から南通市内にたどりつくまで、順調でも4時間かかった昔を思い出すと、本当に隔世の感がある。飛行機で南通に舞い降りる日が来るのを、今から首を長くして待っている。

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)

【訂正】記事初出時より以下の通り訂正します。
7段落目:江蘇省嘉興市→浙江省嘉興市
(2021年8月27日9:54 ダイヤモンド編集部)