全米第1位の最高峰ビジネススクール(U.S. News & World Report調べ)、スタンフォード大学経営大学院で何年にもわたって大きな人気を博している「権力のレッスン」がある。デボラ・グルーンフェルド教授がその内容を『スタンフォードの権力のレッスン』として刊行、ナイキ社長兼CEOジョン・ドナホーが「本音の言葉で権力のからくりを教えてくれる」、フェイスブックCOOシェリル・サンドバーグが「権力についての考え方、使い方を一変し、自分の中に眠っている大きな力に気づかせてくれる」と絶賛するなど、大きな話題となっている。「権力の心理学」を25年間研究してきた教授の集大成ともいうべきその内容とは? 世界のトップエリートがこぞって学んでいる教えを、本書から一部、特別公開する。
一部の人は「権力を濫用する人間」に惹かれてしまう
皮肉なことだが、権力を濫用(らんよう)する人びとには人を引きつける魅力があるようだ。
なぜ、私たちはそんな人に惹かれるのだろう? なぜ、恋に落ちるのだろう? なぜ、彼らのために働きたいと思うのだろう? あるいはなぜ、憎悪をむき出しにする政治家──その憎悪が自分に向けられているときでさえ──に投票するのだろう?
それは、彼らが示す強さ、精神力、統率力が安心を与えるからだ。特に自分が無力なとき、その傾向が強まる。その際、彼らが自分を守ろうとしてくれる人かどうかは関係ないのである。
ヘンリー・キッシンジャーは、権力は究極の媚薬だと言った。人間の進化のモデルによると、私たちは強い相手に惹かれる。なぜなら、強いパートナーは繁殖と生存の確率を高めてくれるからだ。
それが現在の文化にも反映している。あらゆる種類の力は性的魅力を高める。逆もまた然り。力を持てばパートナーとしての潜在的な魅力が高まり、身体的魅力は力をもたらす。
それを裏づけるのが、カリフォルニア大学バークレー校の心理学者ダナ・カーニーとその同僚たちが行った研究だ。オンラインのマッチング・サービスの利用者のプロフィール写真を分析した結果、男女とも、表面的な優位性(体格のよさや容貌の魅力)を感じさせる異性にコンタクトを取る確率が高いことがわかった。
進化論的分析はさておき、パワフルなパートナーは成功の証であり、自分のステータスや価値を世界に示すものと考えることもできる。だれでもよりどりみどりの魅力的な相手が自分を選んでくれたという事実はエゴを満足させてくれる。
パワフルな人と一緒にいると、怖くもあるが、興奮もする。それは女性が攻撃的な男性に惹かれる理由の一つだ。また、部下が上司からの酒や食事、旅行の誘いを、権力に接近したいという理由で受けるのもそれが理由だ。
「搾取されている人」こそが支持する矛盾
「ファーザー・コンプレックス」を抱える女性はジョークのネタにされるが、笑い話ですまないことが多い。一部の政治学者は、有権者(男女問わず)は政治家を親代わりの存在と見ていて、「強い父親」を好むことが多いと考えている。
そのようなタイプの政治家は、自分を守ってほしいと願う人や、厳しい親がいるほうが安全と感じる人には魅力的に見える。そう考えれば、反フェミニズムのトランプ前大統領を支持した女性有権者が多かったことも説明がつく。
強いリーダーに最初に飛びつくのが最も弱い集団や個人なのも、リーダーがそのような集団の恐れや不安や無力感に容易につけ込むのも、それが理由かもしれない(トランプは苦境にある白人労働者階級に求愛して彼らの支持を取りつけた)。
そう考えれば、セザール・サヨック──トランプの政敵の多数に郵便爆弾を送りつけた、ストリッパーからピザの配達人に転身した隠遁生活者──など、トランプの支持者として有名な何人かが、トランプのことを理想の父親と認めていることも説明できるかもしれない。
(本原稿はデボラ・グルーンフェルド著『スタンフォードの権力のレッスン』〔御立英史訳、ダイヤモンド社〕からの抜粋です)