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全米第1位の最高峰ビジネススクール（U.S. News ＆ World Report調べ）、スタンフォード大学経営大学院で何年にもわたって大きな人気を博している「権力のレッスン」がある。デボラ・グルーンフェルド教授がその内容を『スタンフォードの権力のレッスン』として刊行、ナイキ社長兼CEOジョン・ドナホーが「本音の言葉で権力のからくりを教えてくれる」、フェイスブックCOOシェリル・サンドバーグが「権力についての考え方、使い方を一変し、自分の中に眠っている大きな力に気づかせてくれる」と絶賛するなど、大きな話題となっている。「権力の心理学」を25年間研究してきた教授の集大成ともいうべきその内容とは？ 世界のトップエリートがこぞって学んでいる教えを、本書から一部、特別公開する。
「自己評価が正確かどうか」という大きな違い
実際より力があるかのようにふるまうのは、経験の乏しい人にありがちな初歩的なミスだ。理由は理解できる。会議やプレゼンに備えてTEDトークの動画などを見ると、登壇するだれもが堂々としたポーズを決めているので、虚勢を張ってでも好印象を与えるべきだと思ってしまうのだ。
しかし、うわべを取り繕うような戦略は成功をもたらさない。求めるべき力は、自分が果たす役割が生む力であり、他者に敬意を示したら失われてしまうような力ではない。
同僚から聞いた失敗談なのだが、彼はエグゼクティブたちを相手にコーチングをしているときに、やりすぎてしまったという。彼が話し始めたとき、グループの中で最も高位のクライアントがスマートフォンの画面を見ていることに気づいた。注意を喚起する目的で、彼はみんなの前に立ち、小学校の先生がするように、黙ってそのクライアントを見つめたそうだ。
その場の主導権を取り戻そうとする試みだったが、自分とクライアントのあいだの力関係を完全に読み間違えた行動だった。彼は自分のステータスを過大評価し、場の流れから逸脱し、クライアントを失った。
私たちは集団内での自分のランクを過小評価することによる損害を、過大評価することによる損害より心配しがちだが、これは計算を誤っている。社会階層について研究している心理学者のキャメロン・アンダーソンは、実験協力者をいくつかのチームに分けて作業を行わせ、自分自身とチームメンバーのステータスを評価させる実験を行った。
すると、自分の社会的ランクを他者による評価より高く自己評価した者は、チームメンバーから嫌われただけではなく、チームに対する貢献度も低く評価され、手堅い自己評価をしたメンバーのほうが好待遇にふさわしいと見なされた。つまり過大評価のほうが損害が大きかったということだ。
自己評価が高すぎると評価されない
必要以上に他者に敬意を示すことは、たとえ間違っていたとしても比較的安全な間違いだ。しかし、自分をパワーアップすることは、他者をパワーダウンさせずにはおかない（「パワーアップ」とは自分の権力を強調すること、「パワーダウン」は権力を控えめに見せること。本書参照）。
集団の中で尊敬されている人に敬意を示さないなら、自分の立場をわきまえていない人間と思われて損をする。これは社会的な自殺と言える。パワーアップが常にうまくいくとは限らないのはそれが理由だ。
自分を実際より重要であるかのようにふるまう人に、私たちはいわく言い難い不快感を覚える。それはなぜだろう？
一つには、高い自己評価が、相対的に他者を低く評価しているというメッセージを発信してしまうからだ。上司に対しては「あなたは地位にふさわしくない」というメッセージを伝えてしまう。同僚には「あなたより私のほうがすぐれている」というメッセージを伝えてしまう。つまり、パワーアップはまわりの全員を侮辱するようなものだ。
場の空気を読む能力の欠如は、雇用主やクライアントにとってだけではなく、だれにとっても、あらゆる状況で障害となる危険信号だ。それは、自分の見栄えだけを気にしていて、ほかの人のことを気にしていないことを示している。
（本原稿は『スタンフォードの権力のレッスン』からの抜粋です）
『スタンフォードの権力のレッスン』人気記事！
第1位：「出世する人」「しない人」の決定的な違い
第2位：無能な人間が「権力者」になる不可避な理由
第3位：部下にとって「一番最悪な上司」の1つの特徴
『スタンフォードの権力のレッスン』とは？──編集部より
本書は、世界でも有数のビジネスエリートが集まるスタンフォード大学GSB（経営大学院）で大きな人気を誇っている授業をもとにして書かれたものです。
「権力」と聞くと、「男性的」だったり「支配」だったりというイメージを連想する方が多いかもしれませんが、社会心理学者であり権力を研究する著者によると、本当の権力とは必ずしもそうしたものではないといいます。
実際には、人とのつながりや、利他的な行為、組織への貢献などを重視する人こそが権力を手にし、人を効果的に動かせるというのです。
『スタンフォードの権力のレッスン』デボラ・グルーンフェルド著、御立英史訳
ダイヤモンド社より好評発売中
また、自分は権力なんて関係ない、と感じる人もいるかもしれませんが、権力関係は、友人間や家族間、夫婦間など人間関係があるところならどこにでも存在します。
そこで本書では、広く読者に向けて、「どうすれば権力を手にできるか」、あるいは「どうふるまうと効果的に権力を発揮できるか」、さらには「二番手的位置から力を発揮するには？」「弱い立場から権力者に対抗するには？」など、権力にまつわるあらゆることの真実を紹介します。
ユニークなのが、そのメソッドとして「演技」の理論を取り入れているということ。権力を発揮するには、強く出るだけでなく、反対に自分を弱く見せるなど、相手や状況に沿ってもっとも適切な振る舞いをする必要があり、そのためには俳優のノウハウが役に立つというのです。
従来の権力のイメージをくつがえし、しなやかで、人のため、チームのためになる力を手に入れられる本書、これからのリーダーに必読の一冊です。
■本書の目次
INTRODUCTION 「権力のレッスン」へようこそ
PART1 権力とは何か？──その正体を正確に知る
第1章 権力の真実と神話──だれもが権力を誤解している
PART2 権力をつかむ戦略──ハードパワーとソフトパワー
第2章 自分を強く見せる戦略──パワーアップとプレイ・ハイ
第3章 相手を優位に置く戦略──パワーダウンとプレイ・ロー
PART3 権力を感じさせる──パワフルに行動する方法
第4章 権力を「演じる」──権力はプロットで決まる
第5章 「助手席」で力を発揮する──脇役として力をつかむ
第6章 権力の「プレッシャー」に勝つ──力には責任がともなう
PART4 権力の手綱をさばく──権力への対抗策
第7章 権力は人を「暴走」させる──こうして権力者はダメになる
第8章 権力に「対抗」する──権力に屈する心理と解決策
第9章 権力者から「力」を奪う──立場が弱くても逆転できる方法
第10章 権力の正しい使い方──力は他者のためにある
