全米第1位の最高峰ビジネススクール(U.S. News & World Report調べ)、スタンフォード大学経営大学院で何年にもわたって大きな人気を博している「権力のレッスン」がある。デボラ・グルーンフェルド教授がその内容を『スタンフォードの権力のレッスン』として刊行、ナイキ社長兼CEOジョン・ドナホーが「本音の言葉で権力のからくりを教えてくれる」、フェイスブックCOOシェリル・サンドバーグが「権力についての考え方、使い方を一変し、自分の中に眠っている大きな力に気づかせてくれる」と絶賛するなど、大きな話題となっている。「権力の心理学」を25年間研究してきた教授の集大成ともいうべきその内容とは? 世界のトップエリートがこぞって学んでいる教えを、本書から一部、特別公開する。

無能な人間が「権力者」になる不可避な理由Photo: Adobe Stock

力のない者ほど「立場の力」を誇示しようとする

 権力のある人は誤解しているかもしれないが、高い地位に就いたとしても、他者からの尊敬や、他者を支配する権利が自動的についてくるわけではない。

 権力の使い方を間違ったら──自分に権力を与えた制度や組織に対して不正を働いたり、全体の福祉を無視して自分の利益を得ようとしたら──地位も正当性も失われ、人をコントロールする能力も失われてしまう。

 これは、政治が機能していない国、腐敗勢力による強権支配が行われているような国で見られる現象だ。怒れる民衆の抵抗を受け、ステータスも正当性も失った権力者は脅迫や弾圧、暴力に頼って権力を維持しようとする。一般に、自分の権力を誇示しなくてはならない者ほど、実際に持っている権力は弱い(中略)

人はその「無力さ」に応じて権力を求めるから

 個人主義の文化では、権力は自己強化のためのツールであり、個人的な目的のために使えるリソースと見なされる。

 しかし、少し俯瞰すれば、家族、組織、コミュニティといった社会集団の中では、権力は個人のためだけでなく、集団の問題を解決するために使われていることがわかる。

 人間でも動物でも、集団の中では、ナンバーワンの指導者が、群れを守るために進んでリスクを取ることによって権力を保持している。下位のメンバーは、その集団に所属し、守ってもらい、他のメンバーが獲得した資源を分けてもらうことと引き換えに、上位のメンバーに奉仕する。

 自分自身のことを気にかけ、「自分に何の得があるのか」と問うことは自然だし、健全だとさえ言える。しかし、権力を持ったときや、権力を行使するときは、その問いから始めるのは適切ではない。

 人間は自分の無力さを感じる程度に応じて権力を求める。しかし、どんなに権力を持ったところで、無力感が和らぐことはない。

 私たちが感じる無力感は、権力それ自体の不足が原因ではない。それは幼少期の記憶であり、生存本能であり、自分は永遠に生き続けるわけではないという事実への反応だ。

 私たちにできる最善のことは、この現実と折り合いをつけ、与えられた時間の中で他者のために生きようとすることだ。

 そのような考え方の変化は、年齢とともに、ある程度は自然に起こる。知恵と人生経験、そして死が近づいているという自覚によって、私たちは将来の世代に意識を向け、彼らの繁栄のために自分に何ができるかを考え始める。

 何かを成し遂げたいと思い、人生の意味や目的を考え始める。自分の成功や幸福より、次の世代の成功と幸福を気にかけるようになる。

 だが、そのような心境の変化が訪れるのを待つ必要はない。幸いなことに、私たちは何歳であっても、このような知恵と成熟を身につけることができる。そのために必要なのは、権力の目的について、これまでと違う新しい考え方を学ぶことだけだ。

(本原稿はデボラ・グルーンフェルド著『スタンフォードの権力のレッスン』からの抜粋です)