『御社の営業がダメな理由』『社畜のススメ』など累計40万部を超える著書を持つ営業改革・マネジメントコンサルタントの藤本篤志さんの新刊『営業の新PDCA大全』は、まさにコンサルタントのノウハウを全公開した一冊。無数の営業部を知り尽くしたコンサルタントしか知りえない驚きの問題点と、その解決策、改善策が詰め込まれています。コロナ禍によって、日本中の営業部がそのやり方を再考せざるを得なくなっていますが、藤本さんは、営業を立て直すにはPDCAをきちんと機能させることが効果的と言います。しかし、長年沁み込んだ惰性的な慣習、自分だけはこのやりかたでいいだろうという怠慢、本当に担当者の実力なのか、実は誰でも売れたのかといった評価の難しさなど、さまざまな営業部ならではの落とし穴がPDCAの適切な運用を阻んでいます。藤本さんによる「営業部に特化した新PDCA」のポイントを明快に解説します。

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自力、社力という考え方が営業社員を成長させる

 私が強くお薦めしたいのは、売上げを自力と社力に分けて目標設定を行うことです。

 自力とは、自らの営業活動で新規に開拓した取引先のセールス成績、および過去に自力開拓した取引先からのリピートセールス成績が対象となります。ただし、自力開拓のセールス成績であっても、一定の年数(3~5年が多い)が経てば、たとえ開拓者が担当していても社力に計上するのが一般的です。

 社力とは、聞き慣れない言葉かもしれませんが、自力ではないものすべてです。つまり、新規開拓のセールス成績であっても、会社、上司、他の社員から振り分けられた成績、および担当として割り当てられた既存取引先からのリピートセールス成績が対象となります。ただし、直近で一定年数(2~3年が多い)以上の取引がない既存取引先に対し、再アタックをかけて取引を復活させた場合には、自力に計上することがよくあります(自力、社力の区分方法についてはコラムで詳述しています。参考にしてください)。

 営業は結果が数字ではっきりとわかる仕事ですが、その数字をもたらしたプロセスが見えにくい仕事でもあります。極端なことを言えば、日々動き回って新規顧客を追いかけている営業社員よりも、デスクにいるだけで打ち出の小槌のようにリピートセールス成績が加算される営業社員のほうが、成績が良く評価も高いという、理不尽なことも起きやすいのです。

 そこで、本当に能力が高く、良い評価に値する営業社員を客観的に選び出すことができるように工夫したのが、成績の内訳を自力と社力に区分するアイデアです。

 人事評価体系と成績の自力・社力区分がリンクすれば、それが営業社員へのメッセージとなり、より高い評価を得たいと考える意欲のある社員は、社力成績を確保することだけに満足せず、自力成績の開拓にも積極的にチャレンジするようになります。正しい評価体系が組織を活性化するだけでなく、次世代の営業マネジャーを本当の実力者から選ぶことが可能になります。

自力か社力か、具体的にどう区分すればよいか

 営業の評価における最大の盲点は、「この受注による売上げは、あなたが営業しなければ実現できなかったのか、誰が営業しても同じだったのか」ということがわかりづらいことです。前者であれば、その営業部員を高く評価すべきですし、後者であれば、「取りこぼさなかった」ぐらいの評価にとどめるべきです。

 ただし、ここからがややこしいのですが、誰が営業してもリピート受注できるルートセールス取引先への営業活動であっても、同業他社と受注を分け合っていた状態を、努力の末自社の独占状態にした場合と、ただ待っているだけの受注に甘え、シェア拡大の努力をしていない場合とでは、営業部員の能力価値は大きく変わります。

 明確に区分できない境界線があるにしても、自力成績と社力成績を可能な限りシンプルに区分し、PDCAや能力評価に役立てることを強くお薦めします。

 区分方法は、文章だけではわかりづらいところもあるので、シンプルな一覧表にまとめました。これに、会社独自の条件を加えれば完成です。

自力、社力の区分一覧

 7の備考欄に書かれている「2倍以上」について、補足説明をします。たとえば、担当を引き継いだ時点の平均シェアが25%であれば、50%以上(6ヵ月以上の経過観察は必要)にしたら自力評価に変わるということです(ただし、△としての低減係数を掛け合わせる)。

 当初は面倒くさそうだなと感じるでしょうが、この効果は抜群です。ぜひとも、導入してください。