日本記者クラブで行われた討論会で河野氏、岸田氏、高市氏、野田氏いよいよ29日に迫った自民党総裁選挙。誰が総裁に選ばれても、直視するべき大問題がある(写真は日本記者クラブで行われた討論会) Photo:Anadolu Agency/gettyimages

自民党総裁選挙がいよいよ明日に迫った。今回総裁に選ばれる人こそが、日本の国民生活を救う最後のチャンスを握っている――。こう指摘するのは、ジャーナリストの藤田和恵氏だ。コロナ禍の貧困支援の現場を長期密着取材し、新著『ハザードランプを探して 黙殺されるコロナ禍の闇を追う』(扶桑社)として出版した藤田氏が、新たに自民党総裁になる人が知るべき「日本の貧困」について緊急寄稿した。

「コロナで死ぬか、経済で死ぬか」を
総裁選候補者は忘れていないか

「コロナで死ぬか、経済で死ぬか」――。この言葉は、新型コロナウイルスの感染拡大が本格化した昨春に盛んに使われた。緊急事態宣言による経済活動の停滞で、失業したり給与が激減したりする人が相次いだからだ。現在でも、新型コロナへの感染は免れたが、困窮してにっちもさっちもいかない人はいくらでもいる。にもかかわらずこの問題は、自民党総裁選の各候補者の政策論議の中では主要なテーマになっていない。

 足元における格差と貧困の問題は、かつてなく深刻化している。その現実を筆者はコロナ禍以降、生活困窮者の支援に取り組む民間ネットワーク「新型コロナ災害緊急アクション」の取材を続ける中で直視してきた。

 中でも、民間団体が新宿や池袋などで続けている炊き出しに足を運ぶと、新型コロナウイルス感染拡大の前後で、明らかな変化があることに気づく。若者や女性、外国人が増えたのだ。

 それまではホームレスの中高年男性が中心だった。ところが、コロナ禍以降は、身なりも比較的こざっぱりとした、もっと言えば、渋谷や新宿をそのまま歩いていても違和感のない人たちが、列の先頭近くに並ぶ姿が珍しくなくなった。最近までかろうじて仕事も、住まいもあった人たちが、明日食べるものに事欠く状態にまで追い詰められていることがうかがえる。

 コロナ禍の貧困取材の感想を一言で表すなら「明日はわが身の空恐ろしさ」と言っていい。中でも筆者が衝撃を受けたのは、寮付き派遣の仕事などに就いてきた20代の男性が支援団体に寄せたSOSのメールだった。

「神奈川のほうから仕事を探しながら東京まで歩いてきました。基本、野宿です。あちこちをさまよい、面接の前の日だけ漫画喫茶でシャワーだけ借りて、身だしなみを整えていましたが、住まいもなく、携帯の通話機能も止まってしまったのでどこも雇ってくれるところがありません。労働意欲もさまざまな資格もあるのに就職活動に必要な履歴書や証明写真を買うお金すらなくなってしまいました。もう1週間何も食べず、水道の水だけの生活が続いています。どうか助けてください……」