中国は2001年に世界貿易機関(WTO)に加盟、国際ルールに沿う開放体制に取り組んできた。2010年代半には、WTO内のルール作りに参画するようになり、主要ポストに人材を送るようになった。今では「WTO改革」を主張する主要国である。

 次に狙いを定めたのがRCEPだ。

 ASEAN10カ国が2011年に提唱した地域の経済連携で、日本、韓国、中国が乗り出し「ASEAN+3」で協議が始まった。

 中国の影響力が強まるのを警戒する日本はオーストラリア、ニュージーランド、インドを招き入れASEAN+6の枠組みに広げた。やがて人口で中国を抜くインドを加えて中国の力を薄めようとしたが、インドは経済自由化を一気に進めれば中国からの輸入や投資が急増することを恐れ途中で離脱。日本の思惑は空転した。

 RCEPは昨年11月、最終合意にこぎつけ、15カ国が署名した。人口22億人超、GDPや貿易額で世界の3分の1を占める経済圏が来年1月に発効する。

 ここにTPPを重ねればアジア太平洋に広がる巨大な共同市場が生まれる。

 中国は、「米国の世界支配」は経済や軍事力だけでなく、国際機関や国境を越えたルール作りで発言権・指導力を持ち、米国に都合のいいルールを世界秩序にしていることにある、とみている。

 論文は、TPP加入の狙いを「国際的なルールメイキングへの協力の強化、域外適用法制の整備による防衛体制の構築、という意図があり、2021年から25年にかけて、この動きを本格化しようという意図がうかがえる」(抜粋)と指摘している。

 TPP加盟申請は「ちょっかいを出す」といったヤワなものではなく、パラダイムシフトを視野に置いた世界戦略というわけだ。

中国が抱える「3つの課題」
国有企業問題で指導部内に緊張関係

 だが一方で、中国には「超えなければならない課題」が内在することは確かだ。

 政府補助を受けている国有企業や労働慣行、電子商取引の3部門で「TPP基準をクリアできるか」という問題を抱えている。

 中国の急成長を担ってきたのは民間企業だ。国有企業は雇用を吸収し、地域では欠かせない存在だが、非効率で、さまざまな政府支援によって支えられている。

 TPPは国有企業への過剰な支援を禁止し、民間と対等な競争条件を求めている。

 国有企業改革を巡っては、中国の指導部の中で「企業の公平性」を主張する改革派と、「国家の安定性」を重視する保守派の緊張関係が背後にある。「対等な競争条件」を急ぐと、政権内部の暗闘を招きかねない。