労働を巡る問題はさらに微妙だ。

 TPPは、労働者が労働組合を選択できる自由を求めているが、中国では、労組の全てが中華全国総工会に加盟し統制を受けている。「労働組合の結成の自由」は共産党の指導体制とぶつかりかねない。「強制労働」が疑われる新疆ウイグル問題などの難題もある。

 電子商取引では、中国はソフトウエアの鍵ともいえるソースコードの開示を求めたり、データの国外持ち出しなどを制限したりしている。TPPは当局による過剰な監視や統制を原則として認めていない。情報やデータは、国家の安全保障と絡むだけに問題は複雑だ。

「門前払い」が日本の役割?
排他性はTPPの価値を落とす

 RCEPの場合は、共同経済圏を創るため、例えば日本ならコメのように、各国が抱える国内調整が難しい品目を対象に例外規定を設けているが、TPPはより高いレベルの自由化を求めている。

 中国を排除するために「厳しい自由化基準」を盾にすることもできる。

 西村康稔経済再生担当相は「中国がTPPの極めて高いレベルのルールを満たす用意があるのか、しっかり見極める必要がある」。梶山弘志経産相も「全てのルールの受け入れを用意できているか、見極めが必要」と語った。

 不参加の米国に忖度し日本が門前払いの役割を演ずるつもりのようだが、遠く離れた英国には加盟を認め、近隣の中国を排除すればTPPは経済圏としていうより政治ブロックへと変質するだろう。

 中国が加盟するRCEPがまもなく誕生する中で、米国も中国もいないTPPは無用の長物になる恐れがある。排他性は自由な貿易や投資の経済圏をやせ細らせるだけだろう。

経済より安全保障重視の危うさ
分断の象徴「QUAD」「AUKUS」

 経済連携の時代は終わったのだろうか。

 始まりはEU統合だった。国境を越えるヒト・モノ・カネが経済に活気を与え、相互に依存しあう国と国との関係は戦争を回避する平和の土台であることが確認された。

 その流れはアジアに及び、アジア共同体構想などが模索され、APEC(アジア太平洋経済協力)ができた。米国が加わり21カ国・地域の大所帯になって、アジア共同体はかすんだ。

 そして経済的な同盟として米国中心のTPPと中国を軸とするRCEPがそれぞれ生まれた。この20年、こうした地域の経済連携を軸にアジアは投資が集まり成長した。

 流れを変えたのが、米中対立だ。