こうして「N-NOSE」は、生物の能力でがんを見つけ出し、従来の検査法にはない、次のようなメリットを発揮するに至った。

(1)苦痛がない→検査に必要な尿の量はたったの1滴。
(2)簡便→尿の採取には特別な条件を定めていない。たとえば前日の食事制限なども不要。
(3)早い→2021年9月時点で、年間120万件の解析が可能。
(4)安価→人件費以外に必要なのは寒天と大腸菌だけ。PET-CTなどの医療機器と比べ、断然安い(1万2500円〈税込み〉)。
(5)全身網羅的に、さまざまながんを一度で検出できる→がんスクリーニングに適している。

 現在、線虫が反応することが分かっているがんは15種類(胃、大腸、肺、乳、膵臓、肝臓、前立腺、子宮、食道、胆のう、胆管、腎、ぼうこう、卵巣、口腔・咽頭)だ。線虫検査では、早期がんでも検出できるため、ステージ0、1のがん患者の尿にも反応する。また、がんの有無に関する診断の精度は86%と高い。従来の腫瘍マーカーは早期のがんに対する感度が低かった(進行がんにならないと見つけられない)が、「N-NOSE」は早期がんでも高感度である。
※日本がん予防学会(2019 年6月)、日本人間ドック学会(2019 年7月)、日本がん検診・診断学会(2019 年8月)で発表のデータを集計。

「ハイリスク」で直ちに
病院を受診し、助かった人も

 公益財団法人日本対がん協会によると、新型コロナウイルス感染症の流行で2020年(1~12月)のがん検診受診者数は、対前年比30.5%の大幅減となっている。広津氏はこうした状況について「今後、本来助かるべきだったがんが末期の状態で見つかることが増えるのではないか」と懸念を示した上で、次のように語った。

「『N-NOSE』は尿で検査できるので医療機関に行く必要がなく、医療機関に負担をかけない形でサービスが提供できます。昨年末に開始して以来、検査の受診者は10万人を超えました。自宅で採尿して回収拠点に提出する『Go To N-NOSE』や全国10カ所の『N-NOSEステーション』、検体集荷サービスなど物流網の整備を終えたので、今後は医療機関への導入も進めていきます」