空き家となった実家を売るのは、相続の前と後のどちらがベストか。相続の知識を押さえていなければ数百万円も損することがある。いまや10人に1人が支払う相続税。特集『死後の手続き お金の準備』(全16回)の#3では、相続のその時が来てから慌てないためにも基本のルールと対策をおさらいしよう。(ダイヤモンド編集部編集委員 名古屋和希)
10人に1人が払う相続税
相続資産には借金も含まれる
2015年の相続税の大増税に伴い、相続税を支払う人が激増している。全国では10人に1人、東京都では6人に1人が課税の対象だ。かつて相続税といえば、富裕層だけの悩みとされてきたが、今や多くの人が直面する時代になった。
「うちは資産がないから相続は関係ない」。そう考える人は多いかもしれない。確かに、相続税は一定以上の資産がある人に生じる。しかし、亡くなった人の遺産を受け継ぐ「相続」は誰にでも平等に起こる。そして、相続の手続きを放置すれば、思わぬ不利益を被りかねないのだ。
では、相続はどう進めればいいのだろうか。気を付けなければならないのが、相続や相続税の手続きは「時間との闘い」であるという点だ。
その詳細については、特集#5『夫・妻が亡くなったら「まずやる手続き10項目」死亡届7日以内、準確定申告4カ月以内…』で紹介する。
ここでは相続の手順を簡単におさらいする。身内を亡くした遺族にとって相続の起点は遺言書捜しである。(1)税理士や弁護士(2)最寄りの公証役場(3)故人の自宅(4)故人が利用していた銀行の貸金庫――を順に調べることになる。
存在しない場合、次のステップに入る。それが、民法で定められた遺産を引き継ぐ人(法定相続人)の特定だ。法定相続人には優先順位と範囲が存在する。
故人の配偶者は順位に関係なく常に法定相続人だ。それ以外の親族には優先順位がある。まず第1順位は「直系卑属」と呼ばれる故人の子や孫だ。
直系卑属がいなければ、第2順位の故人の父母や祖父母に当たる「直系尊属」、第3順位の故人の「兄弟姉妹」や「おい・めい」の「傍系血族」と順に繰り下がる。相続手続きには故人と相続人の戸籍を洗い出す必要がある。
相続人の間で遺産はどのように分けられるのか。遺言書がなければ、相続人の間で「遺産分割協議」と呼ばれる話し合いによって決める必要がある。民法で定められた一定の分割割合「法定相続分」を基に分けるのが一般的だ。
仮に遺言書があっても第2順位までの法定相続人には「遺留分」(最低限の取り分)が保証される。遺言書に「愛人に遺産を全て譲る」という遺言があっても、遺留分は必ずもらえる。
法定相続人が決まれば、遺産がどの程度あるかを調べることになる。相続財産は現預金や株式など金融資産のほか、不動産や車など売買できるものはすべて含まれる。
一方、返済中のローンや借金といったマイナスの財産も加わるので注意が必要だ。仮に「死んだ父親は借金の方が多かったから」と相続の手続きを放置していると、借金を引き継ぐことになってしまう。
最終課税対象額に、「法定相続分」の割合を掛け合わせ、各相続人の相続金額が決まる。そこに税率を掛け合わせ、「控除額」を差し引けば、遺族全体で負担する相続税の総額が算出できる。相続人ごとに負担する相続税額は相続税の総額に自分が相続した割合を乗じることで計算できる。
子や孫が戸惑わなくて済むように、相続の流れを押さえつつ、どの程度相続税が課せられるのかあらかじめ試算しておくとよいだろう。
駆け足で相続税の基本をおさらいしてきたが、これで準備万端とはいかない。実は相続には数多くの節税策がある。中には生前に準備しておかないと思わぬ損をするケースもあるのだ。
1人暮らしの母親が施設に入り、実家は空き家に――。独居老人が増加する中、こうしたシチュエーションが増えている。では、別居する子供にとってベストな実家の売り時とはいつだろうか。