死後の手続き お金の準備#9Photo:PIXTA

2018年に約40年ぶりに相続法が大改正され、新しい相続の制度が相次いで導入された。だが、遺留分制度の見直しでは、現金の少ない地主が不動産を多く売らなければいけなくなる不測の事態も生じている。特集『死後の手続き お金の準備』(全16回)の#9では、改正相続法に潜むリスクを解説する。(ダイヤモンド編集部編集委員 名古屋和希)

大改正された相続法が順次施行
介護した「嫁」も遺産請求可能に

 2018年7月、およそ40年ぶりに相続法が大改正され、順次施行されている。高齢化社会を迎え、家族の絵姿が変わりつつある中、残された配偶者の権利を保護したり、遺産を巡る「骨肉の争い」を防いだりするための規定が盛り込まれたのが大きな特徴だ。

 当初、改正の影響は限定的との見方が関係者の間では大勢だった。しかし、新たな規定が施行されるにつれて、次第にその趣旨に反した使われ方や、支払うお金が増えかねない“落とし穴”が目立ってきている。

 今回、改正相続法で施行された規定に関して特に注意すべき五つのリスクを解説していこう。

 まず、改正相続法で、相続権のない「嫁」が介護の貢献度によって遺産を請求できる「特別寄与料」が新たに設けられた。これには、義理の両親を無償で介護した嫁を報いる狙いがある。

 特別寄与料は、相続人以外の親族で、要介護2以上の親を無償で介護するといった貢献を証明できた場合に請求できる。介護日記や実費のレシートのほか、介護事業者とのメールのやりとりなどの記録を残すことが奨励されている。

 しかし、税理士などの間では、使われるケースはほぼないとみられている。なぜか。

 そもそも、亡くなった人の配偶者と1親等の血族以外の人が財産を受け取ると相続税は2割増しになる。特別寄与料を受け取れば、税金を多く払うことになりかねない。

 さらに、遺産を巡る家族間トラブル、いわゆる「争族」に発展しかねないリスクもある。特別寄与料の請求期限は相続を知ってから6カ月以内。もしも相続人による遺産分割協議中に請求すれば、争族という火に油を注ぎかねない。

 実際、介護してくれた嫁の貢献に報いたければ、特別寄与料よりも、相続人である息子が特別寄与料に相当する金額を上乗せした財産を相続した後、息子から妻(嫁)に贈与するなどすれば、高い税金を支払わなくて済む。

 改正相続法の落とし穴は、この特別寄与料だけではない。幅広く影響が出ているのが、「遺留分の金銭支払い」という規定である。

 遺留分とは、遺言の内容にかかわらず、相続人に最低限認められている遺産の取り分のことだ。せっかく相続した土地をすぐに売らなければならない――。実は、遺留分を巡って、こうした対応を迫られる人が増えている。