怒鳴りつけてくるクレーマーに対応するコツとは

 初期対応で毅然と対応していれば、ここまでの悪質な事件にまでは至っていなかった――私だけでなく、多くの皆さんもそう思っているのではないでしょうか。

 しかし、これまでの連載でも説明してきましたが、怒鳴り散らす相手に毅然とした対応をとることは実はとても難しい。ましてや、相手は生活保護の対象である「弱者」であり、最初から詐欺を働こうなどの悪意はなかったでしょう。初期の段階では、単に「怒鳴る・罵声を浴びせる」ことはあったかもしれませんが、それだけでは悪意があるとは断定でない状況であり、あくまでグレーゾーンです。

 対応する職員の立場からすると、現場で突然浴びせられる罵声の威力は強烈で、ちょっとしたパニック状態になります。冷静になってから判断すれば、理不尽な要求だと分かっても、いきなり“弱い立場”の市民から怒鳴りつけられ、責任追及の罵声を浴びせられたら、あまりの剣幕にあらがえず屈してしまう――。そうした状況は、容易に想像できます。職員は、他の業務もある中、長時間拘束されてしまえば判断力も鈍るでしょう。そのストレスは計り知れません。

対応の限界「K点」を設定する

 こうしたとき、私が現場で対応する人たちに推奨したいのは、対応の限界「K点」(レッドライン)を明確に設定することです。もしこのレッドラインを超えてしまったら、個人で対応するのをやめ、組織対応に切り替えます。このような明確なラインを設けることで、現場の負担も軽減し、後々で組織の首を絞めるような対応を避けることができるのです。

 今回のケースの場合、基準は「他の市民(客)にもできるかどうか」になります。

「この人(クレーマー)の言う通り、特別に対応しても大したことではない……」と、事なかれ主義が頭をもたげたとしても、一人にそうした特別対応をすれば、二人目、三人目と当然特別対応しなくてはならない相手が増えていきます。このような特別待遇が他に知られたら、その対応についての二次クレームの電話が増え、その処理にも追われるでしょう。対応する職員のモチベーションが低下するのは間違いありません。

「面倒な人ほどシンプルに対応する」ことで現場担当者の負担が減り、ストレスも軽減するはずです。納得しない、理不尽な人、「ああ言えばこう言う」人に対してこそ、どのように向き合うか「心構えの基準」を組織で明確に持つことが重要なのです。