今年の夏、中国中央部の大都市が洪水で水浸しになった。この災害で、同国通貨を紙幣からデジタルに転換する計画の重要な要素に疑念が生じた。その要素とは、大きな注目を集めるこの計画の信頼性だ。
7月の大雨で河南省の省都・鄭州市の河川が氾濫、広範囲で停電が起き、携帯電話サービスが機能しなくなった。中国の都市部住民の間では特に、ネットサービス大手テンセントホールディングスの「微信(ウィーチャット)」やアント・グループの「支付宝(アリペイ)」を現金代わりの決済手段として使うのが当たり前になっている。このため、通信網が突然機能を停止したことで、同市の1200万人の住民は緊急時の対応者や家族などに連絡ができなくなった上、お金も使えなくなった。
中国は、主要諸国が自国通貨のデジタル化に取り組む中で、世界の先頭に立っている。鄭州で洪水が起きる4日前には、中国人民銀行(中央銀行)がデジタル人民元普及に向けた公式の戦略を発表し、それまでの実証試験が成功だったとの認識を示した。そこに鄭州の通信途絶が発生し、デジタル人民元計画の基盤であるデジタル決済のインフラが機能停止に陥った。