国際社会はアフガニスタンの内政に
どこまで干渉すべきなのか?

三浦 「世界はタリバン政権を認めるべきか?」という問いに戻ると、私は、その国の政権を認めるかどうかは、ほかの国が決めることはなかなかできないと思います。
もちろん、その国の政権を「日本の立場から見て正式な政府として承認する」という外交の手段として認めるかどうかというのはあります。でも、やはり国家主権自体は尊重しないといけない。
たとえば、アフガニスタンの国民全員が、何の恐れもなしにインターネットなどで投票できるとして、アフガニスタン全土のうち、6割の人がタリバン政権を支持したとします。でも日本政府はタリバン政権を承認していない。その場合、「日本の承認とは一体何なの?」ということになりますよね。現地の6割の人が支持をしているのに、そこからはるか遠くに離れた日本人が、「あなたたちの統治はけしからんから、正式な政府とは認めない」なんてことが言えるでしょうか?
ましてや、私たちが勝手に出かけていって政権を転覆していいなんていうことは、当然、国際法には記されていないんです。「何をしたら制裁すべきか」については論じられても、それは決して自由にやっていいということではない。
たとえば「テロ行為に加担する」とか「他の国へ侵攻する」というのは、国際社会が軍事的に制裁してもいい事例かもしれません。まさに1990年のイラクによるクウェート侵攻に対しては、国際社会は多国籍軍の形でイラクを攻撃し、制裁しました。攻撃国家に対しては、集団的自衛権や集団安全保障による軍事制裁を発動できるからです。
でも仮にサダム・フセインが、イラクの子どものお菓子を奪ってしまったとき、国際社会はそのお菓子を返してあげなさいと言えるかというと、言えませんよね。タリバンがアフガニスタン国内の女性にロングスカート以外はくな、男性にひげを生やせ、と言っても、我々は軍事制裁できないんです。
池内 どこまでアフガニスタンの内政に干渉すべきか、すべきでないのか、というのは難しい問題ですね。タリバンやタリバンを支持するほとんどの人がパシュトゥーン人です。このパシュトゥーン人というのは、アフガニスタン人口の半分に満たないけれども、アフガニスタンで一番多くの人口を占めています。

…アフガニスタンは、パシュトゥーン人(イラン系、全人口の約40%)やタジク人(イラン系、全人口の約30%)、バルチ人(イラン系、全人口の約2%)、ウズベク人(トルコ系、全人口の約9%)、ハザーラ人(モンゴル系、全人口の約9%)等から構成される多民族国家であり、1992年に内戦に陥った後は、イスラム党(パシュトゥーン人中心)、イスラム協会(タジク人中心)、イスラム国民運動党(ウズベク人中心)、イスラム統一党(ハザラ人中心)が主要な勢力として覇権を争う内戦に突入した。この混乱の中、1994年に、伝統的なイスラム神学校の学生を中心としたタリバン(学生たちの意)が登場。このイスラム原理主義の新興勢力は、内戦を終わらせたいと考える多くの国民の支持を得て急速に台頭していく。写真は、内戦時にアフガニスタン第2の都市であるカンダハルを占領したタリバン。Photo:David Turnley/gettyimages
タリバンというのは、マイノリティに対して極めて厳しい政策を行います。アフガニスタンの大多数はスンニ派ですが、シーア派は邪教であり人権はないと、弾圧するわけです。弾圧することが正しいと信じて弾圧する。マイノリティへの弾圧、これがタリバン政権の大きな問題のひとつです。
そのような政権に対して、戦争をして政権を崩壊させればいいかというと、それは違う。でも三浦さんがおっしゃるように、国際社会が何らかの制裁を行うことは必要だと思います。