日本は全体として所得格差の小さな国だが、格差問題がないわけではない。富や負担の分配において生じている世代間格差は深刻だ。いわゆるミレニアル世代は日本においてもしわ寄せを受けている。そうしたミレニアル世代は、それまでの世代より持続可能な社会の実現に強く関心を持つ。今後台頭するミレニアル世代が今後けん引するビジネス、業種は株式投資においても注目すべきである。(クレディ・スイス証券株式会社 プライベート・バンキング チーフ・インベストメント・オフィサー・ジャパン〈日本最高投資責任者〉 松本聡一郎)
富の不平等が最も少ない日本で
拡大する世代間格差
クレディ・スイス・リサーチ・インスティテュートは、世界の富の分布を調査した「グローバル・ウェルス・レポート」を毎年発行している。この調査によると、日本は世界でも最も富の配分の不平等が少ない国である。
2021年版のレポートでは、2000年から2020年までに世界各国の富の不平等がどの程度拡大したかについて考察している。富に関するジニ係数(編集部注:所得の不平等の格差を測る指標、格差が全くない状態がゼロ、1人がすべての所得を独占すると1になる)は、ほとんどの先進国や新興国で上昇したが、数少ない例外がドイツと日本であり、中でも日本は最も低い水準にある。上位1%の保有する富の割合を見ても、日本は2020年18.2%と最も低く、2000年の20.6%から低下している。
よって、日本における格差で問題となるのは、世代間の格差だろう。
世代間格差を考察するにあたって、まず経済活動の中心である企業活動の成果の分配に着目する。
主な配分先は、従業員への給与、政府への税金、株主の配当、そして企業の内部留保などである。法人企業統計の大企業(資本金10億円以上)の数字を利用して、これらの配分額の長期トレンドを、企業の営業利益額に対する割合で比べてみた。そうすると、ここ数年で配分が増えているのが株主への配当と企業の内部留保である。税率が一定なら、税金に対しては一定率の配分が行われたと考えていいだろう。
それに対して、配分比率の減少傾向が続いているのが、従業員の給与である。従業員給与の対営業利益の倍率は、バブル崩壊後は営業利益が落ち込んだことでいったん上昇したが、最近は高度成長期前の1960年代の水準まで低下している。さらに、1人当たりの給与額も2005年あたりを境に大きく低下している。
一方、同時期の1人当たり役員報酬を見ると、一定ペースで順調な上昇が続いている。役員報酬は、企業活動のグローバル化で、海外企業との格差を埋めるべく増加しているのだろうが、従業員の給与格差は改善される気配はないようだ。
従業員給与格差の背景を追求してみると、まず不況下での雇用確保を最優先とし給与水準が低下、その後不足する労働力を非正規雇用など低賃金労働者で補ってきたため、経済や業績が回復しても十分な成果の配分にありつけない傾向が強まっていることが考えられる。