しかし実は新型うつ自体、定義があいまいなものです。病院などでこの診断名が使用されることはありません。

 そもそも、不安や抑うつなどの症状が長期間継続することが、われわれ精神科医が「うつ病」と診断するための条件です。ストレスがないところでうつ状態が消えたり、短期間のうちに状態が変化したりするものは、うつ病とは呼べません。

 実は、「新型うつ病」という医学用語はありません。誤解を恐れずに言うなら、「新型うつ」とは、マスコミが受けを狙って作り上げた言葉であり、「偽」のうつ病なのです。

 医学的な実態のない病気であり、医療の世界には存在していない病気、とも言えます。この病名を診断書に用いる精神科医もいませんし、定義もはっきりしなければ、信頼に足る学説も出ていません。過去、医学論文で新型うつという言葉が扱われたことも、おそらくほとんどないだろうと思います。

 そのため「適応障害は新型うつに似ている」という表現は「あいまいなものをあいまいに説明している」だけになってしまいます。医師が口にする言葉として適切ではないと、私は思います。

 次回は、適応障害となるきっかけや改善方法を具体的に紹介します。

(監修/昭和大学医学部精神医学講座主任教授 岩波 明)

岩波 明(いわなみ・あきら)
昭和大学医学部精神医学講座主任教授(医学博士)。1959年、神奈川県生まれ。東京大学医学部卒業後、都立松沢病院などで臨床経験を積む。東京大学医学部精神医学教室助教授、埼玉医科大学准教授などを経て、2012年より現職。2015年より昭和大学附属烏山病院長を兼任、ADHD専門外来を担当。精神疾患の認知機能障害、発達障害の臨床研究などを主な研究分野としている。著書に『発達障害はなぜ誤診されるのか』(新潮選書)、『女子の発達障害』、『うつと発達障害』(青春新書インテリジェンス)等がある。        
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