原油価格も為替レートも
ニューヨークで決まる

 原油価格は、ニューヨークの取引所で決まる。厳密には原油先物の価格が決まり、「わが国の原油は品質が良いので先物価格プラス3%で売る」といった考え方に基づいて世界中の原油の取引が行われるわけだ。

 ここには、世界中から原油の売り手と買い手が集まるほか、投機家たちも集まってくる。原油先物の取引なので、値上がりすると思えば買って期日前に売れば原油の貯蔵施設を持たなくても良いし、値下がりすると思えば原油を持っていなくても先物を売っておき、期日前に買い戻せば良い。

 したがって、「産油国が値段をつり上げるために皆で一斉に減産している」「欧米では天候が悪くて太陽光発電が難しいため、火力発電用に原油を買う電力会社が多そうだ」といった思惑で、値段が大幅に値上がりすることも起こり得る。

 ドルの値段(為替レート)も、ニューヨークで動く。こちらは日本の通貨と米国の通貨の交換比率なので、実需の貿易取引等は日本人と米国人が中心なのだろうが、やはり世界中の投機家たちが取引に参加している。

 為替レートは株価と同様に美人投票的な要素が強いので、米国の金融政策に敏感に反応しやすい。投機家たちが「米国の金融引き締めはドル高要因」だと考えているからである。そこで、米国の景気が良かったりインフレが懸念されたりすると「金融引き締めが近いからドル高を予想してドルを買っておこう」という投機家が増える。

 こうして、日本国内の事情とは無関係にニューヨークで原油価格と為替レートが決まり、その掛け算で原油の輸入コストが決まり、それが大幅に値上がりしているから国内のガソリン価格が値上がりする、ということになる。

 余談であるが、なぜ原油の取引は産油国ではなくニューヨークで行われているのだろうか。それは、最初に何人かの人々がニューヨークで原油の取引をしていたので、原油を売りたい人も買いたい人も「ニューヨークへ行けば取引相手が見つかるだろう」と考えてニューヨークに集まって来て、それがさらに多くの売り手と買い手を引き寄せた、ということなのではないだろうか。

 こうした現象は、集積のメリットと呼ばれるもので、多くの場面で目にすることができる。たとえば東京一極集中は、働きたい人が仕事を探しに東京に集まり、雇いたい企業が労働者を探しに東京に集まることによって進行している、という考え方だ。