みずほが、不祥事を何度繰り返しても生まれ変われず、金融庁に「言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない」と企業文化を酷評されるに至ったのはなぜか。その真相をえぐる本特集『みずほ「言われたことしかしない銀行」の真相』(全41回)の#1では、みずほの前身3行の1行、第一勧業銀行が起こした総会屋への利益供与事件を取り上げる。

実は、第一銀行と日本勧業銀行の対等合併で誕生した第一勧銀はこの時、後のみずほでも大問題を引き起こした「たすき掛け人事・縦割り組織化」で傷口を広げてしまった。自らの病巣の広がりと事態の急転を把握できず、首脳人事撤回、役員の大量辞任に追い込まれた第一勧銀。“組織ぐるみ”とされる事件の奥底と、後手に回った行内調査の甘さの裏側に一体何があったのか。

「週刊ダイヤモンド」1997年6月21日号の『ダイヤモンドレポート』を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。

第一勧銀の“審査の神様”が逮捕
行内でつぶやいた「審査は命懸け」

 金澤彰元副頭取――バブル当時も融資に厳格さを貫き、他行までその名を知られた“審査の神様”が歴代審査担当役員2人とともに逮捕された。容疑は、94年7月から96年3月にかけて系列ノンバンク・大和信用を使った迂回融資による小池嘉矩容疑者らに対する利益供与である。

 利益供与による商法違反の時効は3年であり、立件対象は94年までに限られる。だが、事件の核心と発端は、89年の野村証券ほか三大証券の株式120万株の購入資金となった31億円の融資にある。

 その融資を了承したのが当時審査一部長の金澤元副頭取だった。さらに、翌年のゴルフ場開発資金の本体と大和信用の合計30億円の融資にかかわり、94年9月の大蔵省検査では副頭取として、そのゴルフ場案件の隠蔽工作を指揮していた――。

 審査のプロの想像もつかぬ裏面に行内は失望した。だが、彼の仕事への厳しい姿勢を知る幹部たちの思いは違った。「あの厳格さ、生まじめさを曲げさせるほどの力が働いたのか」――幹部たちの疑念の先は、歴代トップと、総務部に小池容疑者を紹介した大物総会屋・故木島力也氏の深い親交である。

 金澤副元頭取は事情聴取に黙秘を貫いた逮捕前、行内でこう呟いた。

「審査は命懸けであり、一つの間違いが後にどれほどの問題を引き起こすか、若い人たちに私の後ろ姿でわかってもらえるだろう」