みずほが、不祥事を何度繰り返しても生まれ変われず、金融庁に「言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない」と企業文化を酷評されるに至ったのはなぜか。その真相をえぐる本特集『みずほ「言われたことしかしない銀行」の真相』(全41回)の#2では、日本興業銀行、第一勧業銀行、富士銀行の旧3行が合併してみずほ銀行が誕生する前夜に時をさかのぼって検証する。
「たすき掛け人事などはいっさいやらず」「3行の頭取同士で、過去はいっさい引きずらないと約束している」――。当時の旧3行の頭取が誓った言葉は、みずほの現状を見ると、あまりに虚しく響く。
3行統合で「総資産140兆円」
世界最大の銀行が誕生へ
1999年8月20日、日本興業銀行、第一勧業銀行、富士銀行の3行事業統合の正式発表後、西村正雄・興銀頭取は、中堅幹部に対する行内説明会の席でこう言った。
「自己の能力を冷静かつ客観的に判定しうるか。その一点が、乱世における勝者と敗者を分ける」
その前年、池浦喜三郎元頭取が逝去する直前に勧められた歴史書の一節である。幹部たちは、興銀単独では金融ビッグバンの「勝者」たりえない現実を改めて思い知らされた。
「興銀は産業金融の雄である、という言葉は、私の中では5年前からない」と西村頭取は言ったことがある。彼は興銀のなかでもっとも危機感が深く、過去の輝かしい歴史に引きずられる感傷とは無縁の合理主義者で、かつ環境変化に極めて敏感な経営者である。
総資産140兆円、世界最大の銀行誕生は、この西村頭取の危機意識と合理性に端を発する。
上位都銀とは一線を画し、高度な投資銀行業務を軸とする大企業取引に特化する――就任以来、西村頭取は公言してきた。ところが、時計の針を戻した98年9月、その考えは密かに変わっていた。