これなら、もしそれらが必要になっても、少し手を伸ばせばすぐ取り出せます。とにかく、視界にあふれる物(情報機器)をいったん減らすようにしてもらったのです。

 その効果は、てきめんでした。仕事にとりたてて不都合や支障を生じることもなく、疲れの自覚はかなり緩和されました。

 意外だったのは、デスクの下に置いたスマホやタブレットなどの情報端末を、仕事中に取り出す必要がほとんどなかった、ということ。これには彼自身も驚きを隠せませんでした。

 ようするに、仕事中に対応しなければいけないほど切迫した用件が、そうした端末から入ることはほぼなかったのです。急ぎの要件はたいていデスクトップのメールで、もっと緊急の場合は内線電話、あるいは上司や同僚から口頭で告げられることがほとんどだったと気づきました。

 彼ほどではなくとも、いまはデスク上に情報機器を複数台置いている人は少なくないでしょう。“デジタル疲れ”を緩和するためにも、まずはデスクの上など、よく目に映る場所から物の量を減らすことをおすすめします。

部屋に物がありすぎると
注意力散漫で集中できなくなる

「注意資源」という考え方があります。これは、人間が一度に使うことのできる注意力のこと。注意のエネルギーの全体量のことを指す言葉です。

 スマホでいえば、「一日に使うことのできる通信データ量」のようなイメージです。「注意容量」と呼ぶこともあります。こちらのネーミングのほうがわかりやすいかもしれません。

 たとえばデータ量の大きな動画コンテンツをたくさん見ると、たちまち通信制限がかかって、通信速度が遅くなりますよね。それどころか、ほかのコンテンツを使う容量そのものがなくなってしまいます。

 それと同じで、人間が一度に使うことのできる注意力の量は有限なのです。

 だから部屋に物がたくさんあると、たとえ意識はしていなくても知らず知らずのうちにそれらの物に少しずつ注意を奪われてしまいます。

 その結果、目の前のことに集中したくても注意が散漫になり、脳の情報処理のスピードも遅くなって、肝心の仕事に集中するだけのエネルギーを確保できなくなってしまうのです。