デマゴーグとは、民衆の感情、恐れ、偏見、無知に訴えることにより権力を得ようとする大衆扇動者のことである。いろいろな顔が思い浮かぶかもしれない。極端な決めつけや、レッテル張り、そして敵味方を分けて、歯切れよい発言をする人たちである。この人たちは一部の人にとってはとても魅力的なので、大衆の支持を獲得してしまう。すると残念なことに、これに追随する官僚も出てくる。

「しかし『官僚』というものは、デマゴーグとして強い影響力をもつ個性的な指導者には、わりと簡単にくっついて行くものである。これは官僚の物質的・精神的利害が、指導者の望む党勢力の拡大と密接に結びついているからであるが、それとは別に、指導者のために働くということ自体が、精神的な意味でかなり大きな満足感を彼らに与えるからである」(『職業としての政治』)

 政治の歴史は、デマゴーグに悩まされた結果、システムの内部においてこのような人物を排除する仕組みを導入してきた。

「イギリスの議会では委員会制度が非常に発達してきて、そこでの共同作業という新しい道が開け、指導にあずかろうとするほどの政治家なら是非ふまなければならぬコースになっている。(中略)このためイギリスではこの実地訓練の中で、指導者の選抜が事実上おこなわれ、逆に単なるデマゴーグが排除されるようになった」(『職業としての政治』)

なぜ日本の政治家は
人材不足なのか

 日本では、党内の派閥が政治家を育てた。親分をはじめとする衆人環視のもとで、問題解決力、人の掌握力などが厳しくチェックされ、本当に力のある者だけが生き残った。しかし、小選挙区制になり、個人よりも政党が重要になり、党本部がお金を握るようになると派閥は完全に力を失った。また、政党レベルでは小選挙区制のシステムの導入を大きく誤ったため、真の政治家の人材不足の問題が顕在化するようになったのである。これについては、御厨貴著『政治家の見極め方』に明確に記されている。