ネスレ、ノキアの明暗を分けた「ビジネスモデル」の意義、4つの視点で考えるPhoto:PIXTA

ビジネスモデルは、経営学の歴史の中では比較的新しい概念です。その登場の文脈を押さえることで、コロナ禍の今、ビジネスモデルを活用する必要性が増していることが浮き彫りになります。振り返ると、ネスレやノキアは10年ほど前に、ビジネスの主戦場となる市場や事業の枠組みのゲームチェンジに直面しています。乱世の今、示唆に富む事例です。(神戸大学大学院経営学研究科教授 栗木 契)

「ビジネスモデル」は
本当に必要なのか

 ビジネスモデルとは何なのでしょうか。歴史を振り返ったとき、どのような文脈で、誰の、どのようなニーズに応えるために、ビジネスモデルは登場してきたのでしょうか。

 誰が、なぜ、今ビジネスモデルを必要としているのでしょうか。ビジネスモデルは万能の武器ではありません。その役割や意義を振り返り、押さえておくことが、ビジネスモデルを使いこなすためには必要です。

 事業活動を進め、プロジェクトのゴールとなる目標を達成する。そのために必要となる要因の組み立てを描き出したものを、ビジネスモデルといいます。ビジネスモデルとは広く捉えれば、企業などが事業上の諸活動をいかに組織化し、目標を達成するかを記述したものです。事業を支え、拡大に導く仕組みについての構想や図式をとらえ、示す役割を果たします。

 こうした事業活動の構想や図式を描く試みは、19世紀の近代産業の勃興以来、長らく行われてきました。

 一方で、「ビジネスモデル」という言葉が盛んに用いられるようになったのは、比較的新しいわけです。1990年代の半ば以前の時期には、このような事業の仕組みの構想や図式は、競争戦略論やマーケティング論などの枠組みのもとで論じられていました。しかし1990年代の半ば以降は、こうした構図はビジネスモデルとして論じられるようになることが多くなっていきます。

 競争戦略論をリードしてきたハーバード大学のマイケル・ポーター教授は、ビジネスモデルという概念が産業界などで広く使われはじめた時期に、「この新しそうに見える概念が、戦略の理解に新たに付け加えることは何かあるのか」と、疑問を表明しています。企業などが事業にかかわる諸活動をいかに組織化し、目標を達成するかについては、以前から戦略の問題として、競争戦略論やマーケティング論などの分野で活発に研究が行われていました。5フォース分析やSTPマーケティングは、今でもビジネススクールなどの教科書の定番です。

 企業の目標達成のために諸活動をいかに組織化するかを考えるのであれば、戦略を活用すれば十分ではないか。このポーター教授の疑問に答えることができなければ、ビジネスモデルとは、戦略を新しそうに見えるボトルに移し替えただけのものにすぎず、内容の新しさはないということになりかねません。