体内時計とは、ひと言で言うと、私たちの体に備わった「地球の自転周期に適応する仕組み」です。1日は24時間ですが、体内時計もほぼ24時間になるように仕組まれています。普段は意識することがないかもしれませんが、実は体内時計は「縁の下の力持ち」のように、私たちの心と体の健康を支えてくれているのです。

 これまでは、夜勤や交替勤務をおこなっているシフトワーカーの方々の健康を守るために注目されていた体内時計ですが、今やすべての人にかかわる重要な存在になったと私は考えています。

 そのきっかけが、新型コロナウイルスの感染拡大による、生活様式の変化です。不要不急の外出自粛が呼びかけられ、テレワークを導入する企業や、オンライン授業をおこなう学校も増えました。確かに、このような生活は感染防止には効果的です。一方で、通勤や通学がなくなったことにより、夜型になったり、食事の時間もバラバラになったりと、生活リズムの乱れを招き、体内時計にも影響を与えている可能性があるのです。

 実は体内時計には、脳にある「中枢時計(親時計)」と、全身の細胞(生殖細胞などを除く)にある「末梢時計(子時計)」の2種類があります。この「2つの体内時計」にズレが生じると、先ほど述べたような「なんとなく不調」が起こってきます。

 その典型的な状態が「時差ぼけ」です。日本との時差が大きい国に旅行したことがある人は、経験的にそのつらさがよくおわかりでしょう。そして今は日本にいながらにして、時差ぼけ状態になってしまっている人が急増しているのではないかと私は懸念しています。

 体内時計の乱れは心と体のパフォーマンスを低下させたり、さまざまな病気とのかかわりが指摘されているのです。

体内時計を乱しやすい「シフトワーカー」

 歴史をさかのぼると、私たちの祖先は地球の自転周期に合わせ、太陽が昇ると同時に活動を開始して、太陽が沈むとともに活動が鈍っていき、やがて眠りにつくという生活が一般的でした。

 ところが産業革命以来、工業が勃興して社会環境が一変すると、2交替や3交替制で昼夜関係なく働く工場勤務者が生まれ、不規則な生活を送る人が増えてきました。いわゆる「シフトワーカー」の登場です。