ところが、今回のオリンピックでは、コロナ禍のためにこうした事前合宿を中止した国が多かったようです。日本との時差が7時間、8時間以上ある地域も数多くあり、遠方の国からやってきた選手はさぞ大変だったことでしょう。適応にはかなりの時間がかかってしまい、適応しきれないうちに試合当日を迎えたというケースもあったと思います。

 試合までに時差ぼけが解消されているかどうかで、パフォーマンスはまったく違ってきます。反射神経や骨格筋の反応など肉体的なパフォーマンスに大きく影響しますし、注意力や判断力の面でも多大な影響があります。

 体内時計の働きは、単に約24時間周期のリズムをつくり出しているだけではありません。「最適な時刻に、最適な機能を活性化させる」というタイミングを決める重要な働きも持っています。体内時計をきちんと整えておくことは、その人が本来持っているパフォーマンスを最大限に発揮することにつながるのです。

 普通の日常が戻りつつある今こそ、コロナ禍で乱れた生活リズムを見直し、体内時計を整えて過ごしてみてはいかがでしょうか。

(監修/京都府立医科大学大学院医学研究科統合生理学教授 八木田和弘)

八木田和弘(やぎた・かずひろ)
京都府立医科大学大学院医学研究科統合生理学教授。1995年京都府立医科大学卒業後、同大学附属病院第3内科にて研修。京都府立医科大学大学院修了。神戸大学医学部第2解剖学助手および講師、名古屋大学理学部COE助教授、大阪大学大学院医学系研究科神経細胞生物学准教授を経て2010年より現職。2017年から地域生涯健康医学講座の教授を併任。時間生物学、環境生理学の研究に取り組む傍ら、体内時計の視点から生活改善の大切さを伝える活動にも取り組んでいる。