中小企業の事業承継をめぐる2つの誤った「悪玉論」とはPhoto:123RF

好業績でも廃業を選ぶ経営者

 近年、中小企業の「後継者難」がたびたび指摘されているが、何も知らずに後継者難と聞くと、その理由を業績不振に求めがちだ。しかし、中小企業白書(2021年版)によると、20年の1年間に休廃業・解散した約5万社の企業の6割以上が直前決算期で黒字だった。注目すべきは、それら「黒字廃業」した企業の約4割(20年で39.8%)が、売上高純利益率5%以上を計上していたことだ。しかもこれは税引き後の利益率である。

 さらに上場企業のデータを見てみる。日本取引所グループが公開している20年度決算短信集計データ(連結)によると、金融業を除く全産業・全市場で上場企業は3,388社あり、売上高純利益率は平均4.10%である。成熟産業に属する地味な企業が多い市場2部(同453社)ではこれが1.36%なので、先に挙げた「売上高純利益率5%以上」がいかに優れた業績か分かる。毎年1万社を超えるそれほどの優良企業が、みずから手じまいを選択しているのだ。

 休廃業企業にこれだけ好業績企業が含まれていれば、その一歩手前でM&Aに移行する企業が増えるのも当然だろう。しかし、社外の第三者なら対価を払ってでも譲り受けたい事業を、現経営者の身内が無償でも嫌がる(=事業を承継しない)とは一体どういうことなのか。あくまでも家業の後継者がいないのであって、資産の相続人がいないわけではないところに根深いものがある。金融資産や不動産の相続はするが好業績の家業は継がないというのは、領土分割はするが、王位継承はしないということに等しい。いわば、「王位を嫌う王家の子女たち」という構図である。

 中小企業の事業承継についてはさまざまな誤解が蔓延しており、後継候補者を失う遠因にもなっている。本連載では、「視点を変えるとこんな考え方もできる」という事業承継の「もう一つの現実」を挙げつつ、地域金融機関が取引企業に寄り添って支援していく上で参考となる手法を紹介していきたい。