求められる「炭素資源」の有効活用
2050年のカーボンニュートラルに向けては温室効果ガス排出量の削減が重要な対策となるが、排出量をゼロにすることが容易ではない産業部門や用途がある。
まず素材系の産業では、製造工程において石油や石炭など、構成元素に炭素を含む資源(炭素資源)を活用しており、温室効果ガスの削減が難しい場合がある。鉄鋼業ではコークスを用いた還元時に温室効果ガスが発生する。コークスの代わりに水素を用いて還元を行う代替技術の開発が進められているが、現状では温室効果ガスの抜本的な削減は難しい。石油から作られるプラスチックなどの素材は、「炭素」「水素」「酸素」の元素から構成されるため、脱炭素は容易ではない。輸送部門では電気自動車による電動化の推進と電源の低炭素化を組み合わせた取り組みが期待されるが、大型の貨物車や船舶、航空機のように高い出力を要し、長距離を移動する輸送手段の電動化を実現するには時間を要するだろう。
これらの部門では、依然として化石燃料やバイオ燃料のような炭素資源の果たす役割が大きい。日本が目指すカーボンニュートラルとは、温室効果ガスの「排出量と吸収量のバランスを取ること」である。つまり、高密度かつ高出力なエネルギーが必要な場合や電力や水素などでの代替が難しい場合には炭素資源を適切に活用しつつ、そこから排出される温室効果ガスを適切に回収することでカーボンニュートラルを維持する取り組みが求められる。