劇的な善悪二元論
このようにザラスシュトラは時間を直線的に把(とら)える(天地創造から最後の審判まで)、劇的な善悪二元論を展開しました。
宗教の世界における善悪二元論は、この世を説明するときに、強い説得力を有します。
仮にこの世を、一人の正義の神がつくったとすると、正義が世界中にあふれていることになります。
悪い君主も殺人鬼も存在しない理屈になります。
清く正しく生きていれば、誰もが幸福になれるはずです。
それなのになぜ、人生には苦しみがあるのか。
神がいるのなら救ってくれてもいいじゃないか。
そう考えて悩むことになります。
作家、遠藤周作の小説『沈黙』(新潮文庫)は、キリシタン禁制下の日本に潜伏したポルトガル人の司祭が、日本人信徒に加えられる拷問を見て心を痛め、ついに自分も背教の瀬戸際に追い込まれていく物語です。
なぜ神は自分を救ってくれないのか、一神教を信じる人間は、現世に生きる苦しみをどのように考えればよいのか。
『沈黙』はこの問題に真正面から取り組んでいます。
逆に一神教が持つ矛盾(全能の神がなぜ現世の苦しみを解決できないのか)が、人間の思考を深くするという側面があるのかもしれません。
その証拠に、アウグスティヌスをはじめとする後世の哲学者がこの問題に真剣に取り組んでいます。
しかし宗教の教義という点から考えれば、善悪二元論は現世で生きる苦しみと来世との関係を、時間軸を挿入することでわかりやすく説明できるのです。
この本では、哲学者、宗教家が熱く生きた3000年を出没年つき系図で紹介しました。
僕は系図が大好きなので、「対立」「友人」などの人間関係マップも盛り込んでみたのでぜひご覧いただけたらと思います。
(本原稿は、11万部突破のロングセラー、出口治明著『哲学と宗教全史』からの抜粋です)