資源枯渇の危機を脱したのは
漁業者の我慢のおかげ?

大間漁協のクロマグロ水揚げ大間漁協のクロマグロ水揚げは年末の今、最盛期を迎えている Photo by H.K.

 日本の近海に産卵場がある太平洋クロマグロは一時、資源枯渇の恐れもささやかれていた。魚の乱獲に厳しい米国政府や環境保護団体から非難され、最大の生産国であり消費国でもある日本は10年前から漁獲抑制に取り組んできた。

「漁業者が苦労して取り組み、資源が回復したことが国際的に認められた」。初めての増枠。それを発表する記者会見で水産庁審議官の高瀬美和子は、日本の漁師たちの我慢や努力をたたえることを忘れなかった。しかし、この思いやりあふれる高瀬の発言も、国からヤミ漁獲の調査を促された青森県や大間漁協の幹部たちには痛烈な皮肉と映ったことだろう。

ヤミ漁獲が漁獲枠圧迫し、
稼ぎ時に不安拭えぬ漁師たち

 本マグロとも呼ばれ、寿司・刺身用に高値で取引されるクロマグロの中でも大間産は最高級だ。19年1月、東京・豊洲市場の初セリで、重さ278キロの大間産クロマグロが3億3360万円、1キロ当たり120万円という途方もない値段を付けたこともある。

 初セリ向け出荷を含め例年12月は大間の漁師たちにとって一番の稼ぎ時だ。しかし、今年は少し事情が違う。ヤミ漁獲の状況次第では割り振られている漁獲枠が予期せぬ形で上限に達するかもしれず、地元の漁師はいつ収入が途絶えるかという不安を抱えたまま海に出ているのだ。

漁獲報告修正を伝えた
地元・東奥日報のスクープ記事が発端

 事の発端は地元紙・東奥日報11月5日付のスクープ記事。「大間マグロ漁獲無報告、一部が脇売り」という大きな見出しが躍る。

「脇売り」とは、漁師が所属する漁協を通さずに出荷することだが、そうした出荷方法それ自体は違法ではない。他への出荷を妨害した農業協同組合が独占禁止法違反に問われたケースは数多くある。生産者が複数の出荷経路を持つことは、競争上むしろ好ましいくらいだ。

 問題は脇売りした漁師たちがマグロの尾数や重量を青森県に報告しなかったことにある。報告のごまかしや未報告、つまり「ヤミ漁獲」は違法であり、懲役や罰金の罪にも問われる事件となる。

 国や県は告発する前に漁業者に自主的に報告を修正するチャンスを与える。東奥日報も続報で、県の指示を受け漁協が調査したところ今年6月から9月までの分として約14トンの未報告が判明し、漁獲報告を修正したと伝えた。