静岡市の市場に30トン近い
大間産マグロが出荷され発覚

 筆者はその真相を確かめるため12月初め大間に行って、大間漁協組合長の坂三男に会った。

 坂の説明によると、水産庁から「静岡の卸売市場に大間のマグロが大量に出荷されている」との情報がもたらされ、青森県の指示で漁協が調査を始めた。その結果、地元の5業者、漁師14人が問題の漁獲や出荷に関わっていたことが分かったのだという。

 静岡市中央卸売市場から取引データを見ると、今年9月、確かに青森県産クロマグロが約28トン取り扱われていた。筆者が市場の卸売会社に尋ねると、そのすべてが大間産ということだった。水産庁もすでに静岡市や卸売会社から資料の提供などを受けて、分析を進めているもようだ。

 大間漁協が青森県に修正報告した漁獲量は静岡市場への出荷量の半分にすぎない。しかし、組合長の坂は「業者にも調査に協力してもらった。24時間、漁師との受け渡しを見張っていることもできない。漁協で調べられることはもうない」という。

 この段階で調査を打ち切るのは早過ぎる気がするが、漁獲量を報告する義務があるのは漁業者であり、漁協は単に県への報告を取り次いでいるだけの立場だから調査権限を持たない。坂が調査打ち切りを決めたのは、国や県が調べ、必要なら違反者を告発するなり思うように処分して構わないと考えた結果だろう。

報告の仕組みがザル
発覚したヤミ漁獲は「氷山の一角」か

大間漁協が出荷するクロマグロ大間漁協が出荷するクロマグロには商標「大間まぐろ」の通し番号付きシールや荷札が装着されている Photo by H.K.

 今年9月、東京・豊洲市場が扱った青森県産クロマグロは60トンだった。そのことを考えれば、28トンは地方都市の市場が扱う量としては異例の数量だと分かる。水産物の流通に関わる人なら誰しも不思議に思うだろう。

 値段もかなり安い。28トン分の値段は約4400万円だったのでキロ単価は1500円余り。同じ時期に豊洲では3600円程度だったから、静岡では半値以下の水準で取引されていたわけだ。水産庁が疑いを抱くのは当然である。

「未報告の漁獲だから安値覚悟で地方に出荷したのではないか」

 大間のマグロ流通事情に詳しい人物はそう解説してくれた。地元では「明るみに出たのは氷山の一角。大間の隠された漁獲はもっと多い」ともささやかれている。

 豊洲市場でも「大間のデタラメぶりを見ると、まじめに資源管理に取り組んでいる長崎・壱岐の一本釣り漁師たちが気の毒に思える」(大手荷受け)という声も聞こえてくる。

 事態は収拾どころか、逆の方向に向かっている。ヤミ漁獲は長い時間かけて育ててきた大間ブランドを汚しているのだ。

 漁獲未報告のクロマグロを扱った大間のある出荷業者の社長は「報告は漁師が行うもの。自分たちは関わりたくない」という。青森県水産振興課長の白取尚実は「出荷した業者を個別に回って、漁獲報告への協力を要請した」というものの、漁師の申告に頼るしかないのであれば、水産庁が設計した報告制度自体がザルというほかない。