国や他の都道府県からの
漁獲枠の融通で乗り切れるのか?

 21年度(21年4月~22年3月)の青森県の沿岸漁業者に最終的に割り当てられたクロマグロの漁獲枠は小型魚339トン、大型魚543トン。県内の漁協などで構成する管理委員会が漁協別に振り分け、漁協は漁師ごとの枠を決める。巨大マグロが有名な大間漁協の枠は小型魚7トン、大型魚245トンである。

 11月末時点で大間漁協の枠消化は8割程度とみられ、12月以降も50トン程度の枠が残っているもようで、組合長の坂は「年内の操業分は確保できている」とみている。

 しかし、坂の見立ては楽観的に過ぎるかもしれない。青森県は11月下旬に開いた管理委員会で県留保枠(大型魚枠10トン)を必要な団体に配分する予定だったが、見送っている。大間以外の漁協でも未報告が見つかって、漁獲枠にゆとりがあるのかないのか精査する必要が生じたからだ。

下北半島の北端に近い場所に立つ大間漁協の本店下北半島の北端に近い場所に立つ大間漁協の本店 Photo by H.K.

 県内の融通で不足する場合に備えて、国を通じて他の都道府県から余りそうな枠を譲り受けたいという希望も出しているが、今のところ提供の申し出はない。

まじめにルール守れば、
収入が減り、借金も返せず苦境に

 一本釣りや小型のはえ縄船が多い大間のような沿岸漁業者向けの枠配分が大型のまき網漁船などと比べて、少な過ぎることもヤミ漁獲を誘発する要因の一つだ。250トン近い枠もマグロを釣る百数十人もの漁師で分け合うと、1人当たりの枠は小さい。

 高い大間のクロマグロのキロ単価5000円とみても、漁獲枠が2トンなら収入は1000万円。そこから委託販売の手数料や燃料代、漁船の維持費などを差し引くと手取りは半分くらいしかなくなる。ヤミ漁獲、脇売りの誘惑に負けてしまう漁師がいることは容易に想像がつく。

 過去数年を振り返ってみても、長崎・対馬や三重、静岡、さらには大間と同じ津軽海峡に面した北海道・松前などで漁獲の未報告が問題になったことがある。過剰漁獲が発覚すれば、当然、将来の漁獲枠を減らされ、漁師は自分の首を絞める結果になる。

「思うように獲れない環境が続くと、船を買った借金を返せず、廃業するほかない」

 漁協を通してしか販売しないというベテラン漁師の悩みは深い。跡を継ぐ息子のために船を仕立て直したのに漁獲に上限を設定されてしまい、以前よりも少ない量しか獲れなくなった。値段が高くなる年末まで枠を残しておこうと、100キロ、200キロのマグロでも獲り過ぎだと思えば海にリリース(放流)してきた。

「生きた状態でマグロを戻してやろうとして、釣り糸に自分の親指が絡まり、爪から先が糸で切り落とされてしまったこともある。水産庁に賠償を求めて裁判を起こしたいくらいだ」

 この漁師は大きなマグロが目の前をたくさん泳いでいるのに釣り上げることができないいら立ちを抑えきれないでいる。