漁協の指導団体、全国漁業協同組合連合会(全漁連)も、国の水産政策審議会で資源管理先進国といわれるノルウェーの例などを引き合いに出して、「大型漁船よりも沿岸の漁師に優先的に漁獲枠を配分すべきだ」と主張している。

 しかし、まき網漁業など大臣許可の大型漁船を抱える業界に天下り先を多数抱えているためか、水産庁は大型船優遇に傾きがちだ。今年も大臣許可を持つ新規参入の船団が青森の太平洋側などでクロマグロ漁獲を大幅に増やし、釣りたくても枠が足りない大間の釣り漁師らが、漁業の許可種類ごとの枠の違いに不公平感を募らせる要因にもなった。

「見ぬふり」したツケを払う
青森県・漁協、水産庁にも責任

 大間産クロマグロの流通量が公式に報告された漁獲量より多いという噂はかねてあった。実は筆者も4年前に、築地市場(当時)の大間産クロマグロの流通データと青森県への漁協の漁獲報告量の違いから産地偽装やヤミ漁獲の可能性を疑い、大間や東京で取材を進めたことがある。

 残念ながら証拠がつかめず、報道にいたらなかったが、青森県から来た回答にはがっかりした。

「大間漁協が所属漁業者に未報告の確認を口頭で行ったところ報告漏れの連絡はないため、大間漁協としてはクロマグロ漁獲量を100%捕捉できているものと考えている」

 青森県は自らの職員を動員して実情を調べることをせず、漁協の形ばかりの調査の結果を伝えてきただけだったのである。

 今回のヤミ漁獲の発覚は水産庁からの情報提供がきっかけだったと知って、水産庁は少しだけ重い腰を上げたと感じた。しかし、青森県や大間漁協と一緒になって長い間、ヤミ漁獲の実態を知りながら「見て見ぬふり」を続けていたのではないかという疑念は消えない。国も県も漁協も大間の一部の漁師たちによる隠された漁獲を表に出す機会を失してしまったのかもしれない。

 しかし、パンドラの箱はもう開いてしまった。大間漁協以外の漁協でも続々と漁獲の未報告の申告が上がり始めているようだ。税務当局がヤミ漁獲による収入をターゲットにして調査に動き始めたと証言する漁業関係者もいた。「見ぬふり」をしたツケを払う時期なのかもしれない。

 資源回復の状況を勘案したWCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)の増枠合意を受け、来年度の青森県枠(大型魚)も年度当初の枠で比較して、21年度460トンだったものが22年度506トンへと1割ほど増えるが、その程度の増枠などヤミ漁獲の実態が暴かれたら、ないも同然かもしれない。

 大間の疑わしい漁獲が静岡の市場から逆探知されたように、今後は漁獲証明や水揚げ港の指定などで欧米に倣って日本でも不正な流通を監視する仕組みが整っていくに違いない。太平洋クロマグロの資源が回復して、漁獲枠が拡大に向かう今がウミを出し切る最後のチャンスだ。

(敬称略)

【訂正】記事初出時より以下の通り訂正します。
24段目:白鳥尚美→白取尚実
(2021年12月22日12:48 ダイヤモンド編集部)