世界一ブランドの育て方を伝授
――著者からのメッセージ

 台頭するAI(人工知能)が人間にとって、どれほどの影響を与えるか。「AI時代にも失われない人間の根源的な価値とは何か」という問いが今、多くの人に突きつけられています。

 すでにAI技術は編集の現場にも入り込み、AIを利用して記事を書く取り組みも始まっています。記者が数時間かけて執筆していた記事を、AIを活用してものの数分で書き上げる日も、そう遠くないでしょう。

 現在、私はソーシャルメディアの会社でコンテンツを制作していますが、AIの存在感は高まるばかり。編集者や記者が担っていた役割は、何も価値を発揮できなければ、着実にAIに取って代わられるのは、時間の問題だと感じています。

 AIがプレスリリースを読み込み、解説記事を書くようになる時代。
 医師の代わりにAIが患者の症状を判断する時代。
 社長に代わってロボットが経営の意思決定をする時代。

 そんな世界が一部ではもう訪れています。人間だけが持つとされてきた価値のコモディティ化が始まっているのです。

 この流れが進んだ未来で、私たちは一体、どんな価値を発揮すればいいのでしょうか。

コモディティ化する時代のお手本

 実は、このテーマを考える上で、レゴはとても興味深い題材になります。レゴという会社そのものがブロックのコモディティ化の波にのまれ、それを機に自分たちの価値を見直し、経営を改革して復活したからです。

 創業以来、レゴの壊れにくく、丈夫なブロックは競争力の源泉でした。ところが1980年代後半、そのブロックの特許が切れ、誰でもレゴと同じブロックを製造できるようになりました。結果、レゴよりも廉価に同じようなブロックを販売するメーカーが何社も登場してコモディティとなり、価格競争の波にさらされました。同じ時期には家庭用テレビゲーム機という新たなライバルも登場し、子どもたちの興味が失われていきました。

 当初、レゴはこの環境の変化に適応できず、経営が迷走します。2004年には記録的な赤字を記録し、身売りを迫られるまでに経営が追い詰められます。

 しかし、そこからレゴははい上がり、見事に復活を果たしました。土壇場で自らの本質的な価値を問い直し、「ブロックを組み立てる」という経験を届けることに事業を集中。戦略を練り直し、自分たちの価値を最も効果的に消費者に提供する組織へ変わっていきました。

 その詳細は、『レゴ 競争にも模倣にも負けない世界一ブランドの育て方』をご覧いただきたいのですが、2020年12月期の決算は、創業以来の過去最高益を更新。売上規模はこの10年間で約3倍に増え、売上高では玩具メーカー世界一の座に君臨しています。売上高営業利益率は2020年12月期で29.6%。ROE(自己資本利益率)は同43.4%。業種や規模こそ違えど、GAFAに匹敵する水準となりました。

どん底から世界一へと返り咲いた復活劇

 本書は、私がデンマークのレゴ本社を含む世界各地の現場を訪れ、経営トップから現場社員、元社員など、多くのレゴ関係者に取材を重ねて書き上げたレゴの「脱コモディティ経営」の記録です。継続的にイノベーションを生み出す方法論や、ファンのアイデアを製品開発に取り込む「ユーザーイノベーション」のプラットフォーム戦術、優秀な人材をひきつける「(パーパス=存在意義)」志向の経営。レゴが培ってきた経営の基本的な考え方やビジネスのアプローチは、脱コモディティ経営の手本として、組織のリーダーや新規事業の任い手にきっと示唆と刺激を与えるでしょう。

 強さの本質は、レゴに「自分たちは何者か」を問う企業文化がしっかりと根づいている点です。「我々は何を成し遂げたいのか」「どんな価値を社会に提供できるのか」「レゴがなくなったら、社会は何を失うのだろうか」――。レゴが常に投げ掛け続けているこの問いは、「自分がいなくなったら、会社は何を失うのか」と読み替えることで、これからの時代を生き抜く私たちすべてに向けた問いになるはずです。

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■著者紹介
蛯谷敏(えびたに・さとし)
ビジネス・ノンフィクションライター/編集者
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2000年日経BP入社。2006年から『日経ビジネス』の記者・編集者として活動。2012年に日経ビジネスDigital編集長、2014年に日経ビジネスロンドン支局長。2018年7月にリンクトイン入社。現在はマネージング・エディターとして、ビジネスSNS「LinkedIn」の日本市場におけるコンテンツ統括責任者を務める。これからの働き方、新しい仕事のつくり方、社会課題の解決などをテーマに取材を続けている。著書に『爆速経営 新生ヤフーの500日』(日経BP)、『突き抜けるまで問い続けろ 巨大スタートアップ「ビジョナル」挫折と奮闘、成長の軌跡』(ダイヤモンド社)。「レゴシリアスプレイ」認定ファシリテーター。

【本書のポイント】
(1)競争に負けないブランド力の育み方が分かります
(2)子どもから大人まで、熱狂的なファンを育てる方法が分かります
(3)SDGs時代のサステナブル経営が理解できます
(4)話題のパーパス(存在意義)経営の実態を学べます

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【目次】
■序章 レゴブロック その知られざる影響力
■第1章 GAFAをしのぐ効率経営──価値を生み続ける4つの条件
■第2章 誰も、レゴで遊ばない──イノベーションのジレンマに沈む
■第3章 「レゴスター・ウォーズ」の功罪──脱ブロックで失った競争力
■第4章 革新は制約から生まれる──崖っぷちからの再建
◎インタビュー◆ヨアン・ヴィー・クヌッドストープ(レゴ・ブランド・グループ会長)
■第5章 ヒットのタネはファンが知っている──日本人起業家と創った「レゴアイデア」
◎インタビュー◆エリック・フォンヒッペル(米ハーバード大学経営大学院教授、米マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院教授)
◆第6章 AI時代のスキルを育む──遊びを通じて学ぶ創造的思考
◎インタビュー◆ミッチェル・レズニック(米マサチューセッツ工科大学メディアラボ教授)
■第7章 企業の戦略策定にもレゴ──経営危機が生んだ「レゴシリアスプレイ」
◎インタビュー◆ロバート・ラスムセン(「レゴシリアスプレイ」マスタートレーナー協会共同代表)
■第8章 会社の存在意義を問い続ける──サステナビリティ経営の要諦
■第9章 危機、再び──終わらない試行錯誤
◎インタビュー◆ニールス・クリスチャンセン(レゴグループCEO)
■解説 価値を生み続ける会社の条件 佐宗邦威(BIOTOPE 代表)

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