事件で大きな役割を果たした
東京・阿佐ヶ谷のちゃんこ店

 全国紙社会部デスクによると、その2人を結びつけたのは、田中被告の妻が経営するちゃんこ店だった。

「阿佐谷詣で」。ちゃんこ店を訪問することを、日大関係者はこう呼ぶ。田中被告が側近を集めて会合を開くのは決まってこの店で、井ノ口被告は10年代半ば、連日のようにこの店に通い、田中被告の覚えが良くなった。

 このちゃんこ店は一連の事件で大きな役割を果たしたわけだが、現金は田中被告がすべて受け取っていたわけではなく、多くは田中被告の妻だったとされる。事実、特捜部の調べで籔本被告の留守番電話に、妻から現金提供に対するお礼のメッセージが入っていたことが明らかになっている。

 実は田中被告が唯一、頭が上がらないのが妻だったとされ、起訴内容を認めた理由が「妻が共犯として法廷に立たされるのは耐えられない」が理由だった。

 それでは、田中被告を巡ってこれまで数々の疑惑が浮上し、今回は背任事件として井ノ口被告らが立件されたのに共犯とされず、特捜部が脱税事件として逮捕・起訴を狙ったのはなぜか。

 一般的に背任罪は、立件に対するハードルが高い。刑法247条では会社など組織に属する人物が自分や関係者の利益を図る目的でルールを破り「会社の財産上の損害を与えた場合」とされる。

 つまり「組織の利益になると思って行動したが、結果的に損失を出してしまった」場合は罪に問われない。井ノ口、籔本両被告の場合は、田中被告に利益をもたらすため、その結果として自分の出世や利益につながれば日大に損害を与えても構わないという意図があったと判断されたわけだ。

 一方、田中被告の場合は上納金の原資の出所についてうすうす気付いていたとしても、具体的に指示したわけでも、説明を受けたわけでもなく、妻が代わりに「ごっちゃんです」と受領していたのなら、共犯に問うのは不可能だ。

 そのため、今回の強制捜査には特捜部だけではなく、最初からマルサ(東京国税局査察部)が帯同していたのだ。