西辻一真マイファーム代表取締役西辻一真マイファーム代表取締役

絶えず利潤を求めてきた資本主義社会――。経済成長は、労働者からの搾取の上に成り立っている面があるが、自然からもさまざまな資源を奪っていることを見逃してはいけない。東日本大震災、コロナ禍といった危機が訪れる中で、人間に必要なこと、社会に必要なことを立ち止まって考えるべき時なのではないか。農業は、温室効果ガス排出量の4分の1を占めるなど環境負荷が大きいが、その半面、環境問題の解決の糸口となり得る。持続可能な社会にするには、エネルギー・輸送・農業のシステムを転換していくことが必要だ。本連載の『農業 大予測』の#1では、人と自然のより良い関係をつくる農業の取り組みを追いながら、2050年の未来の農業の姿を大胆に予測する。(マイファーム代表取締役 西辻一真)

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会社に戻り経営再建するも残った「後悔」

「人と自然を近づけていく」――そのために私が経営するマイファームは、(1)農業体験分野(2)教育分野(3)事業展開分野と、さまざまなアプローチを行っている。これから農業の未来を提言する上で、まずは、私の波乱万丈な自己紹介をさせていただく。

「地産地消」ならぬ「自産自消」。私の原点は福井県坂井市三国町だ。幼い頃から自然に親しみ、家庭菜園で野菜を作る生活をしていた。あるとき、近所に広大な耕作放棄地があるのに気付き、「活用せずにもったいない。放棄された土地で農業ができないか」という気持ちが湧き起こった。そのときの思いが今に至るまで続いている。

西辻一真マイファーム代表取締役にしつじかずま/1982年福井県生まれ。2006年京都大学農学部資源生物科学科卒業。大学を卒業後、1年間の社会人経験を経て、「自産自消」の理念を掲げてマイファーム設立。体験農園、農業学校、流通販売、農家レストラン、農産物生産などの事業を立ち上げる。10年、戦後最年少で農林水産省政策審議委員。16年、総務省「ふるさとづくり大賞」優秀賞受賞。21年、学校法人札幌静修学園理事長就任。

 農業を始め、“作物を作りたい”という思いから京都大学に入り、農作物(大豆)の研究に進んだ。しかし、私が作りたいのは生産性を上げるような作物じゃなく、例えるならドラゴンボールの仙豆のような人を元気にする作物だった。農業の生産性を上げて食糧問題に寄与したいわけではなかった。自分のやりたいことと研究の方向性の違いに気付いて大学での研究を止め、農家になろうと決意する。

 ところが、農家さんのところに行って、「農業やりたいんです」と相談したら、「やめときなさい」と警告を受けた。大学の担当教授にも「やめろ、道を外す」と、同級生にも「お前終わったな」と言われる。真剣にやりたいと思っていることに対して、逆風は強かった。

 そして、農家になれずに就職をするわけだが、飲食店に営業に行くと、大量に食べ物がゴミ箱に捨てられているのにショックを受けた。農業がすごく好きで農業をやりたいと思っているのに、食べる人が大量に捨てている。こんな世の中はおかしい。捨てるぐらいなら、食べる量だけ注文すればいい。食のゆがみを目の当たりにした。

 世直しをしないと、もし農家になれたとしても、誇り高き農家になることは難しい。私はマイファームという会社を作って農業界の壁を壊し、生活者の食に対する誤った理解を正していくことが、人生の役目だと思い起業を決意する。

「株式会社マイファーム」を設立したのは2007年9月。しかし事業を始めるとき、壁はとてつもなく高かった。